2012年01月14日

人類誕生の歴史と身体動作学

 身体動作を専門とするものとしては、人類誕生の歴史に関して非常に興味をひかれる。ヒトの動作の特性は、2足歩行を基礎としているからである。二軸動作の着眼点のひとつもそこにあった。

 ヒトとは、霊長類、真猿亜目、ヒト上科、ヒト科のHomo属のことである。以前は、ヒト科はHomo属だけと考えられてきたが、DNA研究の発展により、ヒト科にはチンパンジーなどのPan属やGorilla属が含まれるととらえられるようになった。

 霊長類は哺乳類であるが、主に樹上で生活をはじめたと言われている。現在、人間と最も近いのはチンパンジーである。DNA的には99パーセント同じである。チンパンジーと人類の共通祖先からの分岐は800万〜600万年前。樹上生活をしていた霊長類から直立2足歩行が可能な種が現れたのだ。これがヒトの誕生である。身体動作学の出発もここまでさかのぼることになる。身体の動作とは、言うまでもなく「ヒト」の動作であるからだ。チンパンジーも、二本足で立ち歩くこともできる。しかし、その状態を長く維持することができない。骨格が大きく違うためだ。主な違いには、以下のようなものがある。

 1.チンパンジーの背骨は頭骨の後ろについている。それに対し、ヒトは真下についているので、頭部を支えることができる。脊椎と頭蓋の連結部を大後頭口という。動作学からは大後頭口の位置は重要な観点である。

 2.ヒトの背骨はS字形に曲がっており、重量のある頭部を支えることができるようになっている。腰に重心が位置するようになっているのでバランスよく立つことができる。

 3.チンパンジーは大腿骨が骨盤から真下にむいているのに対し、ヒトの大腿骨は内側に向いている。これにより、上体を垂直に保っての歩行が可能である。二軸動作でいう「垂直感覚」の動きが可能になるのはこの大腿骨の角度による。

 4.チンパンジーの親指は足の内側についており、手のようなかたちをしている。歩行ではなく木の上での生活に適した形である。これに対し、ヒトは五本の指が足の前側に同じ方向についている。しかも「土ふまず」があり、体重を足の裏の3点でしっかり支えるようになっている。3点とは拇指球・小指球・踵部である。

 脊椎のS字状へ変化はなぜ起こったか。一説には、樹上生活で枝などにぶら下がったために、脊椎が伸びて徐々にS字状になったとも考えられている。地上で生活する種からは直立2足歩行が可能な哺乳類は生まれなかったのだ。

 地上にたったヒトは、当初は頭蓋容積が約750ml程度であったが、約100万年前にはホモ・エルガスターが現れた。頭蓋容積は1000ml程度、北京原人やジャワ原人などはこの時代のヒトである。その後、約40万年前にはホモ・ネアンデルターレンシスがあわわれる。俗に言うネアンデルタール人である。彼らは頭蓋容積は1600mlあり、ほぼ現代人と同じ容量を持っていた。

 さて、我々は20〜30年前に現れたホモ・サピエンスの子孫である。ホモ・サピエンスとホモ・ネアンデルターレンシスは同時代に生存していたが、どういうわけかホモ・ネアンデルターレンシスは3万年前に絶滅している。ホモ・サピエンスは、アフリカやユーラシア大陸に広がっていた原人が、それぞれの地域で進化していったものだと考えられていた。 ところが1987年、とんでもない説が発表された。現在の人類の祖先は、29〜14万年前にアフリカに住んでいた、あるひとりの女性であったというのだ。

 これは、DNAの研究からでてきた仮説である。細胞内のミトコンドリアがもつDNAは、ヒトなど高等生物の場合、母親側からしか遺伝しないことがわかっているので、これを調べることで母方の先祖をたどることができる。そして、アフリカ人、アジア人、オーストラリア人、ヨーロッパ人、ニューギニア人からとったミトコンドリアDNAを比較して家系図をつくった結果、アフリカ人から他の人種が枝わかれしていったことがわかったのである。

 この説によれば、現在の人類は、20万年ほど前にアフリカに出現した新人から枝分かれしていった。世界各地にいた原人たちは、子孫を残すことなく絶滅したということになる。ちなみに、人類共通の先祖と想定されるアフリカ女性は、旧約聖書に登場する最初の女にちなんで「ミトコンドリア・イブ」と名付けられた。この説が正しいとすれば、その女性とは一体どのような経緯で現れたのであろうか。

 いずれにせよ、身体動作を専門とする立場からは、人類誕生の歴史は非常に興味深い課題である。

2012年01月11日

隠されていた空手

 「隠されていた空手」(桧垣源之助著・チャンプ)という著書がある。「桧垣源之助」はペンネーム。以前、何度かメールを交換させていただいたことがあるが、本名も、またどのような経歴の方であるのかも知らない。ただ、世界空手道選手権や全日本選手権、さらには数々の国際大会で優勝経験を持つ鈴木雄一氏が、「中学・高校と寮生活をともにした」と語っているところをみれば、本格的に空手の修行をされたであろうことは推察できる。

 さて、「隠されていた」とはどういうことなのか。真実はなぞのままであるが、以前から空手に関してはある興味深い話(伝説)がある。いくつかの流れはあるが、空手は沖縄から本土に伝えられたというのが定説である。ところが、船越義珍先生らが本土に「唐手」を伝えるにあたり、沖縄の唐手家の間で「秘密協定」があったと言われている。その「秘密協定」とは「ヤマトンチュー(大和人)には本当の唐手は教えない」「型は使えないようにして本土の人に教える」というものであった。本土で一般に広めた空手の型は使えないように改変されたものであったらしい。

 桧垣氏は船越義珍先生の高弟であった久保山紹山先生に師事しているが、ある逸話が紹介されている。日本に伝わった空手は、大学の空手部を中心に発展した。久保山先生によれば、船越先生が大学で教える空手と、夜に自宅で教える空手は全く違っていたという。「なぜ、昼と違うことを教えるのですか」という問いかけに、船越先生は「本当は教えてはいけないのだ」ということを言われたらしい。どの程度の拘束力があったかは分からないが、「秘密協定」があったとする伝説は信憑性がある。

 技や技術を改変しての伝承に違和感を持つ方も多いであろう。しかし、武道・武術の世界では目新しいことではない。武道(武術)の伝承形態は一子相伝だ。本来、武道(武術)の技は殺傷術である。よって、誰にでも教えてはならないという不文律があった。道場に入門してくる弟子にも、「型」は教えてもその「用法」や「操作」は教えなかったとも言われている。

 この一子相伝的伝承形態はスポーツにもあるのかもしれない。欧米人が自国の魂とも言えるスポーツ文化を、正直に東洋の小国に伝えたであろうか。

 そういえば、ある競技のオリンピックコーチの言葉を思い出す。「戦後の長い間、日本は欧米から嘘を教えられてきた・・・やっと気づきました。」

 外来スポーツの技術や習得法などを今一度見直す必要がある。

 

2011年12月15日

「単え身」の身体操作

ネイマール.bmp 昨日(14日)のトヨタカップ、サントス(ブラジル)対柏(日本)戦。度肝を抜かれた。ある新聞は「子どもが大人を子ども扱いした」と表現した。19才のネイマールにあのプレーを見せつけられては、ネイマールを子ども扱いはできないだろう。

 抜群のドリブルセンスと決定力を併せ持つことから、同サントスの伝説的選手ペレの再来と並び称される逸材。前半19分、MF大谷を鋭い切り返しでかわす。「ちょっと考えたけど、マークされてたからね」。しかし本当の見せ場はこの後だった。なんと利き足とは逆の左で、器用にカーブをかけてシュート。GK菅野が、1歩も動けないほどの精度で、ゴール左隅ギリギリに決めた。

 シュート直後の写真、着目すべき点が二つある。まずは、彼の左足関節が屈曲されたままであること。これはネイマールだけではない。インステップもしくはインフロントにみえるキックを、世界のトップは足関節を十分屈曲させたままで打つ。

 そして、彼の体幹を見ていただきたい。左右の股関節と肩甲骨の位置と内外旋が同調している。全く体幹がねじられていないのだ。この局面では、一般的には右肩が前方に位置する。この左右の股関節と肩甲骨の位置と同調は、左上腕の外旋でつくられている。

 全く体幹がねじられていない身体を「単え身(ひとえみ)」という。「単え身」は前近代日本の伝統的な「身体」のあり様だ。やはり、日本人の身体を見直す必要がある。

2011年10月26日

からだを捨てさること

 現在の身体運動(スポーツや武道)の考え方は、競技性や人間の陶冶(教育)におかれている。学校での体育活動をみれば一目瞭然。競技か教育か、その狭間でスポーツや武道が悲鳴を上げている。これらは容易には両立しない。

 合理的身体動作を「身体操作」というとすれば、その目的は何か。多くは競技性(パーフォーマンス)の向上やそこから派生する副次的な要素を目的としている。

 しかし、もう一つ最も吟味しなければならない目的がある。それは、身体を捨てさること。身体におよぼす力(パワー)を、私は「内力」と「外力」と説明してきた。あいていに言えば「内力」は「筋力」、「外力」は「重力」だ。しかし、実はもうひとつの「力」がある。それは武術でいえば「気」とか「意念」とか言われる。これら「気」や「意念」を概念という人もいるが、これらは概念ではなく実体だ。これらのパワーは、誰の「からだ」にも作用しているがほとんどの人は気づくことはない。なぜなら、「からだ」が「内力」や「外力」で動くととらえているからだ。「気」や「意念」の実感は、からだを極限まで合理化しそれを捨て去ることによってはじめて現れる。合理的身体操作を学ぶ真の目的はそこにある。

 よって、それらを知る方法は一つではない。スポーツや武道(武術)はその一方便でしかない。たとえば、座禅を組むのも同じこと。からだをある「型」に押しこめることによって、からだを捨て去ることを目的とする。合理的に静止することと合理的に動作することは同じことなのだ。人によっては日常生活を送ることによってその目的を達成しているかもしれない。

 スポーツの目的を「競技」か「教育」かととらえると動作の本質がわからなくなる。競技性や人間形成を離れた目的を見据える必要がある。

2011年10月24日

浜田プロ惜しくも連覇ならず【2011PGAティーチングプロ選手権シニアの部】

hamada01.JPG 「2軸感覚スイング」の浜田節夫プロが「2010PGAティーチングプロ選手権シニアの部」で優勝したことは昨年記事にしました。昨日、携帯に浜田さんからメールが・・・、「今年のティーチングプロ選手権は1打差の2位でした」。PGAのHPに記事が掲載されています。

 昨年は優勝、今年は2位、「2軸スイング」の威力でしょうか。浜田プロは、24歳からゴルフをはじめてプロを目指しました。元々、野球で鍛えた「身体能力」は抜群です。そして、何といっても福山雅治に激似の甘いマスク(ゴルフに関係ないか・・笑)。

 現在、「ゴルファーなら知っておきたいからだのこと」(大修館書店)が編集の最終段階に入っております。私もほんの少しお手伝いいたしました。年内には発刊される予定です。

 浜田プロは今週は、日本シニアオープン(広島CC八本松C)にも出場されます。ご声援をお願いします。

2011年10月10日

剣道の構えと「骨盤の傾き」

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  三保の松原で開催された「のび剣」(第32回のびのび剣道学校)に参加いたしました。常歩剣道も取り上げていただきました。今回、あらためて実感したことが構えでの「骨盤の前傾」です。

 上の2枚の写真を比べてください。「のび剣」に参加された女性剣士なのですが、左は従来の「中段の構え」です。竹刀を持たないで、骨盤の角度を調節してもらいました。右が、その構えです。右の構えにすると、ご本人から「こんなに前かがみでいいんですか〜〜」と。

 「前かがみになんてなってませんよ、写真を撮ってみましょうか」というわけで構えを撮影。右の写真をご覧になって驚いておられました。私もはじめて骨盤を前傾させた時には、ゴルフのスタンスのように前かがみに感じたことを思い出しました。実際には、体幹は理想的に立っていますが、骨盤が前傾することで体幹全体が前傾していると錯覚するのです。

 左の骨盤の角度では、柔らかく細かい竹刀操作は難しいのです。右の角度で稽古を重ねると上達が早い思われます。多くの剣士の皆さんは、左の写真のように構えています。

 

 

 

 

 

2011年10月03日

ボウリング投球時の脚のクロスは?

ボウリング.jpg 最近、ボーリングが再流行の兆しがあるとか。こちら(大阪)では、日曜日の深夜に女子プロの番組が組まれてる。(番組名はなんだったか??)

 ボウリングは案外運動量を確保できるらしい。3ゲーム投げた場合の運動量を他のスポーツと比べてみると、マラソンなら7分30秒(距離にしておよそ3`)、テニスなら20分、サイクリングは20分(距離にしておよそ8`)、散歩ならば70分(距離にしておよそ4〜5`)に相当するそうだ。

 運動量が確保できる理由の一つは、ボールの重量にある。重さは一般に4から16ポンド。1ポンドは約456グラムだから、16ポンドなら7キロ以上になる。

 さて、ボウリングの投球動作、フィニッシュでは脚をクロスさせる独特のフォーム。様々な投球があるが、この脚のクロスだけは共通している。この動作は何を意味しているのだろうか。そして、その機能は何か。ボールの重量と関係しているように思われる。(写真は栃木県ボウリング協会のHPより)

 

2011年09月04日

ボルト・・やはり強かった、200M金メダル

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 世界陸上2011(テグ大会)、男子100M決勝でフライングによる失格のボルト選手が、200M決勝では19秒40で2連覇を果たした。スタートのリアクションタイムは、決勝出場選手中最下位の0秒193。いかに慎重にスタートを切ったかが分かる。しかし、その後は大きなストライドで100メートルのコーナーを回り終えるころには、ディックス選手(米国)、ルメートル選手(フランス)らを置き去りにした。19秒40は今季世界最高。ここ2シーズンでは自己ベストの記録だった。

 今回の世界陸上、選手の下肢の動きに注目していた。特に、黒人選手。白人選手や日本選手の走りと比して違いが顕著だ。一つは、膝が最大限に屈曲してる選手が多いこと。そして、前方に振り出された膝(モモ)の位置が低いことだ。そのために、黒人選手の足部は前後ではなく上下に動いているように見える。股関節の動きを抑えてターンオーバーを速くしているのか。

 研究会の他のメンバーは、肩甲骨と上肢の動きの変化にも注目しているようだ。これらの変化は、アンツーカーからタータンへと走路が変わり、さらにタータンも反発力が強くなる傾向にあることが原因なのかもしれない。走競技も走路(道具・用具)の変化によってその技術が変容していく。

2011年08月28日

ボルト・・まさかの失格

 世界陸上(2011)の100M決勝で、ウサイン・ボルト選手がまさかの失格。金メダルを奪取したのは、ボルト選手のトレーニングパートナーのヨハン・ブレーク(21)で、向かい風1・4メートルの中、9秒92を記録した。ボルト選手、位置についての号令で珍しく吠え(声をだし)た。何か、いつもと違っていたのかもしれない。

 ビデオをスローでみると、となり6コースのブレーク選手がわずかにからだが先に動いている(動かしている)。武道などでいう「懸る(かかる)」という状態だったのか。理想の状態は「懸」と「待」が一致した状態だ。「懸待一致」という。「懸(けん)」が強いと、相手や周囲のわずかな「動き」に反応してしまう。「待(たい)」が強いと素早い反応ができない。

 それにしても、ボルト選手の走りが見れなかったことは残念。フライング即失格は、今回から採用されたルールだが、やはり再考の余地はあるだろう。200Mでの走りに期待しよう。

2011年08月28日

世界陸上(2011) ボルト余裕の予選突破

 陸上世界選手権第1日(27日、韓国・大邱)、男子100メートルでは世界記録保持者のウサイン・ボルト(25)選手(ジャマイカ)が楽々と予選を突破した。

 怪物の独壇場だった。男子100メートルで予選6組に登場したボルトはスタートからトップに立つと、爆発的なスピードで周囲を圧倒。50メートル過ぎには後方を振り返る余裕を見せ、すぐに力を抜き始めた。それでも全体トップの10秒10で準決勝へ。

 故障の影響から、今季はベストにはほど遠いとも伝えられていたが、その走りは他を圧倒した。優勝候補筆頭であることは間違いないであろう。

 今回、注目しているのは、各選手の下肢のたたみ方。短距離に限らず、中長距離でも、遊脚の膝をたたみこんで前方に素早く切り返す走りに移行しつつあるよう感じられる。写真は、ボルトの右脚のたたみだ。ほぼ完全に右踵が右大腿後部に接するようにたたみ込まれている。

一本歯(後歯)下駄