2007年01月01日
いよいよ「身体操作」を学びます。読むだけにならないように、自分のからだで学んでください。
第2章と第3章は、文章をご一読いただいた後に、ビデオをご覧ください。本文を補いながら説明します。
私たちは専門のスポーツや武道(武術)の準備姿勢や構えには気をつかいますが、日常の姿勢には無頓着な方々が圧倒的に多いようです.
しかし、日頃の何気ない姿勢が、歩き方やスポーツ動作に大きな影響を与えていることをご存知でしょうか。姿勢を見直すだけで動きが全く変わることも珍しくありません。
最近のスポーツ・武道(武術)界の動向をみても、動作そのものよりも、その基礎となる姿勢に関心が移りつつあるように思います。
そこで、第1章の第1節と第2節は姿勢について学びます。まず第1節は外旋で立つについてです。
まず、その前に股関節について学びましょう。
最初に股関節の位置および構造を確認しましょう。常歩(なみあし)身体研究所のコーナー、「常歩の身体操作」−「股関節の位置」をみてください
http://www.namiashi.net/article/13452491.html
股関節は、左右のお尻のちょっとへこんだところから、10センチくらい奥に位置しています。
そして、HPでは触れてないのですが股関節の構造にも注目しましょう。ご存知のように、股関節は球状の大腿骨頭が骨盤のソケット(寛骨臼)に横(斜め下)から深くはまっています。
そのために、脚を前後にスイングする「屈曲・伸展」の動きに「内転・外転」および「内旋・外旋」の動きが加わることによって効率的な動きがあらわれます。
http://www.namiashi.net/article/13453820.html
そのなかで、とりわけ「外旋」の役割は大きいと考えられるのです。
股関節の「外旋」には外旋六筋(梨状筋・内閉鎖筋・上双子筋・下双子筋・大腿方形筋・外閉鎖筋)が関わっているのですが、これら6つの筋(外旋筋)の総和は内旋筋の3倍ともいわれているからです。
さて、この股関節の外旋力を合理的に発揮させるためにはどのような姿勢が必要でしょうか。歩行動作をイメージしてみましょう。からだを前方にすすめるときに外旋力を生かすにはどうしたらいいでしょう。
進行方向に対して、膝頭(ひざがしら)が外を向くことが理想です。衣服を着用していると膝頭の向きはわかりにくいので、つま先の向きに置きかえてもいいと思います。
しかし、つま先の向きと膝頭の向きは厳密には一致しません。膝の向きよりも10〜15度程度つま先のほうが外を向くともいわれています。
また、さらに膝頭とつま先の角度が大きく、膝下外旋という状態になっている方もいます。しかし、通常はつま先の向きが外を向くと理解していいと思います。
常歩(なみあし)・二軸動作の基礎は、このように股関節(大腿骨)が外旋位にある立ち方(姿勢)です。
実際に立ってみましょう。
足を肩幅(骨盤幅)程度に開き足先はやや開きます。膝を少し曲げ気味にして、膝のうしろ(ひかがみ)が凝らない(つっぱらない)ようにしましょう。
気をつけのように、お腹(おなか)を前方に張り出すのではなく、逆にお尻が少し後ろに出るようなイメージです。
腕はだらりと下げて、顎はぎゅっと引くのではなく、緩めて少し出すようにします。自然と胸が張られます。横から見たときに頭頂・肩の真ん中・大転子(大腿骨上部の出っぱった部分、股関節の位置)が垂直に並ぶと理想です。
鏡をみたり写真を撮ってもらったりして、姿勢を確認しましょう。
姿勢が整ったら、次は重心の位置を感じましょう。足裏のどのあたりに足圧を感じますか。
拇指球付近に圧力がかかっていませんか。そうではなく、足底の踵、そしてアウトエッジ(足裏の小指側)に足圧を感じるように立ちます。
このような立ち方を「外旋立ち」ともいいます。動きやすいだけでなく、とても安定した立ち方です。その威力を実感してみましょう。
普通に立って、同じくらいの体重の人が背中側に回って、立っている人の脇の下から腕を入れて、後ろから抱え上げてみます。
次は、足裏の踵とアウトエッジに圧力がかかった「外旋立ち」で同じように抱え上げてもってください。
今度は、なかなか上がらないはずです。不思議なことに「外旋立ち」に変えるだけで、重さの感じ方も変わってしまいます。
さて、現代人はなかなか外旋立ちができません。最も大きな理由は履物だと思います。子供のころから踵が高い靴を履いて生活することが多く、
「外旋立ち」ができなくなっている人が多いようです。
日ごろから、なるべく踵(かかと)が低い靴を履くことも大切です。
2007年01月01日
近年、骨盤の傾きが注目されています。
日本人と外国人(欧米人、特に黒人)を比べると、日本人は骨盤が後傾し、外国人は前傾しているというものです。
確かに、平均的に外国人の骨盤の傾きと日本人の骨盤の傾きは異なるようです。
みなさんは、骨盤の傾きを実感できるでしょうか。最初はなかなか難しいかもしれません。ちょっとやってみましょう。
まず、正座をしてください。左の写真のようにできるだけ胸を張ってださい。この状態が、骨盤が前傾した状態です。次に、右の写真のように胸を閉じてからだを丸めてください。骨盤が後傾します。
正座をするのは、脚の動きが加わらないようにするためです。武術(武道)の稽古などで正座をして行う目的は、下半身を固定して上半身(体幹)の動きを学ぶためです。
上の状態を何回か繰り返し、そのときの骨盤の傾きを確認してみましょう。
さて、骨盤の傾きで何が違うのでしょうか。
例えば、陸上競技のスタートのとき、相撲の立ちあいなど、わたしたちはすばやく前に出たいときには上体(体幹)を前傾させます。体幹を前傾させるということは、骨盤を前傾させているということです。
骨盤が前傾していれば、からだ(の重心)は前に移動しやすいのです。一方、後ろ向きに走る(バック走)ときはどうでしょうか?。
上体(体幹)を後ろに倒し、骨盤を後傾させます。
つまり、骨盤が前傾していれば前進しやすく、骨盤が後傾していれば後進しやすい(前進しにくい)ということです。
骨盤の前傾が強調されるあまり、どのような動作でも骨盤が前傾していることがいいととらえている人が増えているようです。
そうではありません。ここは重要です。骨盤が前傾すると前進しやすいのです。
近年、陸上競技の選手や指導者が、さかんに骨盤の前傾を推奨しています。それは、陸上の走競技がからだを前進させる動作だからです。
常歩・二軸動作を学んで成功した選手のなかに、競歩の杉本明洋選手がいます。
↓ ↓
http://www.namiashi.net/article/13452919.html
彼が飛躍した最初のきっかけは、骨盤を前傾させたことであると語っています。
彼の歩きをみてみましょう。
最初は、彼がまだ大学一年生で骨盤を後傾させたまま歩いていた動画を紹介します。
↓ ↓
http://www.namiashi.com/hihoukan/movies/sugimoto/0001.html
次は、大学4年生の大学選手権の動画です。前を歩いているのが杉本選手です。
↓ ↓http://www.namiashi.com/hihoukan/movies/sugimoto/0003.html
別人のようですね。やはり最も目立つのが骨盤の傾きです。このように、骨盤の傾きを変えただけで、飛躍的にパフォーマンスがあがることも珍しくありません。
さて、日本人の骨盤は後傾傾向にあるということはいいました。スポーツや武道などで合理的に動くためには、日ごろから前傾させニュートラルな位置に収めておくことが大切です。
これは様々な方向に動く必要がある武道(武術)でも同様で、昔から「骨盤を立てる」ということばで伝わっています。
それでは、骨盤のニュートラルな位置をみてみましょう。
上の(1)〜(4)姿勢を見てください。皆さん日ごろどのような姿勢で立っておられるでしょうか。
(1)と(2)の姿勢は、下肢の筋力低下・膝の伸展制限・抗重力筋の機能下などが原因で、高齢者に多くみられるとされています。
しかし、現代の日本人の若者のほとんどは(2)に近い姿勢をしています。骨盤に着目してください。明らかに後傾しています。
(3)はほぼ理想的な姿勢です。しかし、大転子(大腿骨の先端・股関節の位置)が多少前に位置しています。ラインの上に乗ってくればさらに理想的です。
(4)は非常によい姿勢にみえますが、骨盤を前方に押し出しすぎています。確かに骨盤はさらに前傾しています。陸上競技の走動作には必要な傾きかもしれません。
さて、この節の表題(タイトル)を見てください。「骨盤を立てる」としました。
「骨盤を前傾させる」というと、必要以上に骨盤を前方に押し出し(4)のようにからだを固めてしまう方が多いようです。
「骨盤(腰)を立てる(垂直にする)」とイメージしたほうが、姿勢がとりやすいかもしれません。
まず、ニュートラルな姿勢を学んでください。姿勢は日ごろの生活や専門種目のトレーニング時で常にチェックしてください。そして、徐々に自分の理想の姿勢を見つけてください。
自分の理想的な姿勢は、人とは異なるはずです。皆さんの身体特性や専門とされている種目によって違います。
第1節の外旋位とともに、まず姿勢をチェックする習慣をつけましょう。
2007年01月01日
第1節と第2節で姿勢について学びました。姿勢は動作の基礎です。常に心がけるようにしてください。
この節では股関節について学びましょう。常歩・二軸といえば、股関節の外旋です。第1節でも取り上げましたが、外旋位と外旋の違いについては十分ご理解いただくようにお願いします。
常歩身体研究所の「常歩の身体操作」⇒「股関節の外旋と外旋位」でももう一度読み直してみましょう。
↓ ↓
http://www.namiashi.net/article/13453820.html
ここでは「股関節の抜き」について説明します。「股関節の抜き」も「外旋・外旋位」と同様に動作においては大切な操作です。
それでは、さっそく動いてみましょう。床に腰を下ろして開脚をしてください。可能であれば150度くらい開脚できるといいのですが、90度程度でもかまいません。
両手を床と水平に広げて、左右の股関節に重心を移してみてください。スムーズに重心移動ができるでしょうか。
上の写真を見てください。左右の股関節に重心を乗せかえています。皆さんも同様に動いてみてください。左右の股関節に正確に乗れているかどうか確認してください。
チェックポイントが3つあります。
1つは、例えば右の股関節に乗ったときに、左の股関節(お尻)の下に隙間がありますか。隙間はなくてもほとんど体重がかかっていない状態でしょうか。左の股関節に乗るときは反対です。右のお尻がすこし浮きます。
2つ目は、重心移動したほうの股関節(大腿骨)が外旋してますか。写真を見てください。右股関節に乗ったときには右股関節が外旋、左股関節が内旋です。左に乗ったときはその逆です。
3つ目は、肩のラインを水平を保つことです。両肩の水平を確認するために両腕を水平にあげるのです。傾いていないでしょうか。
これら3つのポイントをチェックしてください。最初はなかなかできないものです。
左右の股関節に乗らずに体幹だけ左右に移動する方もいます。そのような方は、股関節の外旋・内旋がともないません。
それを無理に左右の股関節に乗せようとすると、肩のラインが傾いてしまいます。
写真のような重心移動をするときの身体操作を「股関節の抜き」(股関節を抜く)といいます。
「股関節の抜き」の動きと感覚を体得する方法を紹介しましょう。
立ってください。そして、片足を持ち上げてください。そのときに持ち上げた側の骨盤を下げてください。できますか。
開脚で左右の股関節への乗せかえができなかった方は、このときに持ち上げた脚(遊脚)側の股関節が下がりません。
わかりづらい場合は、階段などの段差を利用してみましょう。段の上に立って、片脚(遊脚)をその段から下にぶら下げてみてください。
そのときに、思い切って遊脚側の骨盤を下げてみてください。この状態が「股関節の抜き」です。何回も遊脚側の骨盤を上下させてください。
「骨盤の抜き」ができない方は、この動作を毎日繰り返してください。そして、前ページの開脚でチェックポイントを確認してください。
合理的な動作のための条件は、いくつかありますが「股関節の抜き」は非常に大切です。
連続動作においても、遊脚側の骨盤が下がります。例えば、走歩行でも遊脚側の骨盤がさがることによって、スムーズな重心移動ができるのです。
開脚での重心移動や階段での骨盤の上下動を毎日ゆっくり繰り返してください。
動きは、ゆっくりつくります。決して急いではいけません。何度も繰り返して「股関節の抜き」の感覚を身につけましょう。
2007年01月01日
「踵(かかと)を踏む」という身体操作も、次節(第5節)の「膝を抜く」と同様、武術(武道)等では伝統的なものですが、これまでそれほどスポーツ界などで知られることはありませんでした。
最近では多くの方々が知ることとなりましたが、「踵(かかと)を踏む」という言葉だけがひとり歩きしている傾向にあります。
「踵(かかと)を踏む」は「きびすを踏む」という表現が原型となっています。
これは、剣豪宮本武蔵が彼の名著『五輪書』のなかで記している表現です。
原文には、
「足はこびやうの事、つまさきを少うけて、きびすをつよく踏むべし」
現代語に訳せば
「足の運びは、爪先はやや浮かし、踵(かかと)をつよく踏みなさい」
となります。
「踵(かかと)を踏む」という身体操作はからだを「前進」させるときの操作です。
しかし、「踵(かかと)を踏む」は「足裏をフラットにつかう」もしくは「足裏全体をつかう」と言いかえることができます。
決して、足裏の後方部だけを使う操作ではありません。
それでは、簡単な実験をしてみましょう。
足を肩幅くらいに開き、膝を少し曲げてたちます。その状態で、前から両肩付近を人に押してもらいます。
後ろに倒れないためには、足のどこに体重がかかりますか。前から押されたときに足底のどこで体重を支えましたか。
そうです、踵(かかと)です。
何回か試してみてください。私たちは後ろへ倒れないためには、踵でからだを支えるのです。
では、後ろから押されたときはどうでしょう。この場合は、つま先(拇指球)付近でからだを支えます。何か変ですね。
前から押されると言うことはからだが後退しないように前に進めるのと同じです。この場合は踵を踏むのです。後ろから押された場合は、前に進まないようにつま先に体重がかかるのです。
さらに、次の実験も行ってみましょう。
足を肩幅くらいに開き、膝を少し曲げてたちます。その姿勢のまま(重心位置をそのままにして)踵やつま先で床を押してみましょう。からだはどのように動きますか。すこし難しいかもしれませんね。何回か挑戦してください。
いかがでしたでしょうか。重心位置をそのままに保ち、踵に圧力をかけるとからだは前に倒れようとします。後ろに倒れる人は、重心位置を後方へ移動させつま先を浮かせています。
逆に、つま先で床を押すとどうでしょうか。今度は、からだは後ろへ倒れます。
これらの実験で分かることは、つま先(拇指球)で蹴る(押す)という動作は、元々体を前方へ進めるための操作ではないということです。からだを後退させるための操作なのです。
逆に、踵(かかと)を踏むことによってからだは前進するのです。
「踵(かかと)を踏む」原理がお分かりいただけたと思います。つまり、動きたい方向とは反対側の足裏でからだを支えるようにすればいいのです。
前進するときには踵(かかと)、後進するときはつま先、右へ移動は左足のアウトエッジ(小指側)、左への移動は右足のアウトエッジです。
「踵(かかと)を踏む」というのは、これらの操作の象徴的な表現です。いつでも踵を踏むのではありません。間違えないでください。
私たちは、踵を踏むまたは踵で体を支持することからは、素早く前には進めないと錯覚しています。
足のつま先側に足圧がかからないとからだは前進しないと思っていませんか。特に日本では長い間、拇指球付近に体重をかけることによってからだを進めると教えられてきました。
シューズについて考えてみましょう。あなたは、どんなシューズを好みますか。とくに運動をするときはどうでしょうか。
足裏のつま先側(拇指球あたり)に乗ったほうが前進しやすいと錯覚している人は、踵が高いシューズを好みます。
ところが、最近のトップアスリートの中には踵が低いシューズ、つまりソール(靴の底)がフラット(水平)の靴を好む選手が多いのです。
大リーグで大活躍しているイチロー選手が使用している試合用スパイクは、ほぼフラットソールです。
また、アテネオリンピック女子マラソンで金メダルを獲得した野口みずき選手や、同じくシドニーオリンピックで金メダルを獲得した高橋尚子選手のシューズもほぼフラットソールです。
シューズの踵が低いということは踵側でからだを支えやすいということです。逆に、踵が高い靴を履けば、つま先(拇指球)側で支えやすくなります。
トップアスリート達は踵を踏むことによって高いパフォーマンスを発揮しているともいえるのです。
日ごろからなるべく踵が低いシューズを履くように心がけてください。
「踵(かかと)を踏む」ことの原理については、もう一度復習をしておきましょう。
↓ ↓
2007年01月01日
近年「膝を抜く」という言葉をあらゆるところでききます。私も著書などで皆さんに紹介してきましたが、「膝を抜く」はもともと武術の流派などの「極意(秘伝)」として伝わっていたものです。
ですから、なかなかスポーツを実践する方々は理解が難しいかもしれません。
スポーツを実践する方々は、例えば「速く動く」とか「相手を押す」など動作は客観的なデータにあらわれる速さや力であるとイメージします。しかし、武術などでの「速さ」や「力」は相手との相対的なものと考えます。「膝の抜き」はそれらを可能にする身体操作だともいえるのです。
「膝の抜き」についての議論(見解)を散見しますと様々なとらえ方がなされているようです。
常歩身体研究所にも概略を書きましたのでごらんください。
↓ ↓
http://www.namiashi.net/article/13346232.html
ここでは、もう少し詳細に「膝の抜き」についてお話してみます。ご専門の競技の技術などに置きかえて考えてください。
多くの方が考えられている「膝の抜き」は地面(床)反力を利用するということです。例えば、立位姿勢から小さく膝を抜く(するどく屈曲させる)こと、または小さくジャンプする(スプリットジャンプ)などによって直後の地面(床)反力を利用します。(これらの「膝の抜き」は伸張反射の利用としても考えられます。)
しかし、これだけの理由で膝を抜くのではありません。その他にも、膝を抜く理由があるのです。
例えば、相撲で四つに組んでいるとします。相手を押す機会をみて力士は膝を抜いて相手を押します。
この膝の抜きをすこし練習して試してみてください。簡単に相手を押すことができます。しかし、ここで相手を押せたのは地面(床)反力によって大きな力が発揮されたためだけはありません。
試しに相手と組んで、膝を抜かずに強い力を出してみてください。それだけでは相手を押すことはできません。力を出した瞬間に相手はその力に対応できるのです。
「膝の抜き」で相手を押せるのは地面(床)反力によって大きな力を得ることは2次的な要素なのです。
「膝の抜き」による押しは、力の大きさ(強さ)ではなく、力の方向の変化と分散です。膝の抜きを使うことによって、瞬時にそれまでの力の方向を変えると同時に分散することができるのです。
膝を抜いた瞬間に、重心が落下することにより相手に向かう力の方向(ベクトル)が下方向に変化します。それとほぼ同時に地面からの斜め上方向への力が加わります。
それによって、相手は押せなくなるのです。つまり力が出せなくなるのです。
私たちは相手と押し合うときには、無意識に力の方向を感知しています。その方向に押し返しますから力の差がそれほどない場合には押されることはありません.
しかし、力を分散されると意識下で押しかえす方向の判断ができなくなるのです。「膝の抜き」はこの力の方向の変化と分散を可能にします。この操作は、武術などでは伝統的な技術です。
また、下の写真は剣道の打突動作です。左の膝を抜きながら打突しています。(常歩身体研究所のHPでも紹介しました)
「膝の抜き」の操作は、からだ前進の速さではなく、初動の気配を消すことができるのです。
たぶん、どんなに計測機器の性能が上がっても気配の測定はできないと思います。
しかし、武術(武道)ではその差は歴然としています。速さは同じでも、膝を伸展させた初動と、逆に抜きによる速さは質が異なるのです。
さらに、「膝の抜き」を威力について述べましょう。もう一度、第一章(第5節)の「荷重と抜重」を読み返してください。
「荷重と抜重」から「膝の抜き」をみてみます。スポーツ界での「膝の抜き」は、荷重による地面(床)反力の利用が主流であることはお分かりだと思います。
しかし、「膝の抜き」の目的は、荷重による地面(床)反力の利用だけではありません。「 荷重と抜重」(第1章第5節)でも述べましたが、「抜重」は身体操作において特別な意味を持っています。
「立ち上がり抜重」と「沈み込み抜重」についてもう一度理解してください。「抜重」の瞬間に、四肢がフリーになるのです。
「立ち上がり抜重」による四肢の解放は多く見られます。しかし、「沈み込み抜重」によるそれは、ごくわずかな一流選手にしかみられません。
この「沈みこみ抜重」を利用でることがトップアスリートへの条件だといっても過言ではありません。
この「沈み込み抜重」を可能にするひとつの方法が、股関節外旋を主とする常歩・二軸動作の身体操作法です。
股関節の外旋が有効に使えないと「沈み込み抜重」による「膝の抜き」はできません。
常歩・二軸動作を用いる目的は「膝の抜き」を可能にするためだといってもいいと思います。
「膝の抜き」による操作は他にもありますが、「トレーニング」の章で随時お知らせすることにします。
2007年01月01日
この節では、肩甲骨と上腕の動きについて学びましょう。
まず、肩甲骨とその周辺について確認しましょう。常歩身体研究所HPの「常歩の身体操作」−「肩甲骨の外放と上腕の外旋」をご覧ください。
↓ ↓
http://www.namiashi.net/article/13455749.html
腕の起点(始点)はどこでしょうか。多くの人は、腕は肩関節(上腕の先端)から動くと感じています。ところが腕の動きの先端は肩関節ではありません。肩を様々な方向へ動かして見てください。
肩関節は固定されているのではなく、腕と一緒に動いています。肩周辺はとても不思議な動き方をします。
肩周辺の動きの起点となっているのはどこでしょうか。
肩関節からさらに体の中央部を触っていくと鎖骨があります。鎖骨を触りながら肩を動かしてください。鎖骨も一緒に動きます。しかし、胸の中央の骨(胸骨)と鎖骨がつながったところに手を置いて肩を動かすとほとんど動きません。
この胸骨と鎖骨をつなぐ関節が上腕(腕)の動きの起点です。ここを胸鎖関節といいます。
肩周辺で体幹の骨とつながっているのは胸鎖関節だけなのです。鎖骨の外側は肩鎖関節によって肩甲骨につながっています。
肩甲骨は背中側にあるおおよそ三角形をした骨です。肋骨はご存知しょう。鳥かごのような形をしています。その肋骨の上に筋肉がのり、さらにその上に肩甲骨が浮いて乗っています。肩関節・鎖骨なども浮いているわけです。
鎖骨だけが先ほどの胸鎖関節で胸骨につながっています。よって、肩甲骨はその肋骨の上を様々な方向へすべるように動きます。上肢(腕)のスムーズな動きは肩甲骨の動きと関係することは容易に想像できると思います。
さて、肩甲骨とその周辺(「肩甲帯」ともいいます)が十分に動くためには何が必要でしょうか。
十分なストレッチをされている方も多いと思います。それも大切なことですが、その前に肩甲骨の位置についてチェックする習慣をつけましょう。常歩身体研究所のHP(「肩甲骨の外放と上腕の外旋」)から画像を転用します。
ご自分の肩の位置を確認してください。現代人は生活形態(習慣)から「前肩」になっている方が圧倒的に多いです。
そのような方は、肩甲骨を後ろに引き気味にして「ニュートラル」の位置を確認してください。
肩が「ニュートラル」の位置にあるように見えても、左右の肩甲骨を背骨側に寄せている人がいます。肩甲骨のそのような状態を「内方編位」といいます。(写真左)
これに対して、肩甲骨を十分に機能させるためには外側に放たれた状態にする必要があります。それは、背中側の肩甲骨周辺や前面の胸鎖関節周辺の筋群が緩むことによって可能となります。
このような状態を肩甲骨の「外放」と呼んでいます(写真右)。肩のニュートラル位置と「外放」を確認するようにしましょう。
さて、次は上腕の動きについて学びましょう。まず、その場で「前にならえ」をしてみてください。そのときの肘の状態を確認してください。
肘が曲がる側はどちらを向いていますか。
このときの肘の向きは人によっていろいろです。肘の曲がる側が上を向いている人ほど、上腕が外旋しています。外旋というのは上腕(腕の肘から肩まで)が外にまわっている状態だということです。
この上腕が外旋している(する)ことで、合理的な動きが生まれます。
相撲で「脇をしめる」ということも言いかえるといい方をかえると「上腕の外旋」のことです。
また、サッカーのスローイン、バスケットボールのパス、陸上選手の腕ふりなど、あらゆる動作で上腕の外旋がつかえます。工夫してみてください。
さらに、上腕の外旋は重心移動を導くことができます。もう一度、常歩身体研究所のHP(「肩甲骨の外放と上腕の外旋」)をみてみましょう。
↓ ↓
http://www.namiashi.net/article/13455749.html
この上腕の外旋をつかった重心の移動もあらゆる場面で応用することができます。
まっすぐに歩いてみてください。そして、右へ90度方向転換をします。方向を変える直前に右手を上に向けてみてください。方向転換がとてもスムーズになります。これも上腕の外旋による重心移動の利用です。
また、腕組みをしてみてください。どのように組みますか。左腕が上に来るように組みますか、それとも右腕が上でしょうか?
左腕が上に乗る組み方を「左組み」、逆を「右組み」ということにします。腕組みをしたまま歩いてみてください。
「左組み」では左方向に、「右組み」では右方向に、徐々に体が進んでいきます。つまり、「左組み」では左重心、「右組み」では右重心になりやすいのです。
腕組みで、その人の日ごろの重心位置がおおよそ見当つくのです。逆に、腕組みで重心を調整することができます。
2007年01月01日
第6節で「肩甲骨の外放と上腕の外旋」について学びました。第7節では、さらに肩甲骨とその周辺の動きに大きく関係する「おとがいを出す」ということについてお話してみます。
「おとがいを出す」の「おとがい」とは顎(あご)のことです。
日本では顎(あご)を出す(あげる)ことがよくないことととらえられている場合があるようです。
「身ことば」とか「からだことば」といって、身体の部分を使って状態や感情・気持ちなどを表現することがあります。
例えば「頭がきれる」「肩を落とす」「腹がたつ」などなどです。さて、「あごを出す(上がる・上げる)」といえばどのような意味になるでしょうか。
「あきらめる」とか「仕事を途中で投げ出す」または「疲れた」状態をあらわします。
ところが、英語では、
Keep your chin up ! (あごを上げろ、出せ)
は、「しっかりせよ」とか「仕事にとりかかれ」「がんばれ」といった意味になります。
あごを出すという「身ことば」が、日本と欧米ではほぼ逆の意味になるようです。
しかし、日本でも動作に適した姿勢は「あごを出す」ことだとする史料があります。
「おとがいを出す」とは宮本武蔵が「五輪書」で述べている表現です。
宮本武蔵は剣術の構え(姿勢)において、多少、顎(あご)を出すことを説いています。
顎(あご)を出すという身体操作は肩甲骨の動きを阻害しないためのもののようです。顎(あご)を多少出すと目線があがります。遠くを見るような感じになります。
顎(あご)を引いてしまうと、鎖骨に付着している筋肉(鎖骨下筋、胸鎖乳突筋、層帽筋)が収縮し肩甲骨を上方へ引き上げた状態になってしまいます。
顎(あご)を多少出すとこれらの筋群がゆるんで肩甲骨が外側下方向へだらっと下がり動きやすいフリーの状態になります。肩甲骨の「外放」です。
さて、顎(あご)を出すということについて、さらに秘密をお教えしましょう。
肩甲骨を外放させるだけでなく、全身をリラックスさせる方法があるのです。それは、下顎(あご)を前方にスライドさせることです。
このことに気づいたのは、最初はプロ歌手の方々の姿勢を検討しているときでした。一流の歌手の方々には何か共通点があるはずだ・・と。
彼らは発声するときに下あごを前方へスライドさせるのです。そのことによって、気道を確保し肩甲帯を緩めています。
スポーツなどのトップ選手も同じです。下顎が大きい(発達している)ように見える選手が多いのです。やはり下あごが前方にスライドしています。
割り箸を準備してください。最初は何もしないで前屈をしてみしょう。次に割り箸を横にして口に軽くかんで同じように前屈してみてください。
いかがでしょうか?。割り箸を軽くかむと柔軟性が高まります。割り箸を軽くかむことによって、下あごがスライドするのです。
もう一つ、肩甲帯を緩める方法を紹介します。それは笑うことです。
拳法には相手に「微笑みかける」ことを極意としている流派があるようです。これも肩甲骨の動きをスムーズにするための操作です。
顔の筋肉(表情筋)がゆるむことによって肩甲骨の動きを制御する胸鎖関節周辺の筋肉がゆるみます。
日本ではスポーツをするときなどに「笑う」ことはよくないこととされてきました。「笑う」ことは不真面目であるかのようにとらえられ、多くのスポーツ現場でしかめっ面をした指導者と選手が見られます。
しかし、「笑う」または「顔の筋肉をゆるめる」ことは肩甲骨をスムーズに動かす大切なコツなのです。
このような観点で競技をみると、外国人選手は笑顔が絶えません。外国のトップアスリートの中には笑いながらプレーする選手もいることに気づきます。
2007年01月01日
からだと左右については、HP(常歩身体研究所)やメルマガで何回も触れてきましたが、もう一度整理してみましょう。
現在、陸上競技のトラックの回り方は反時計回り(左回り)。野球のベースランニングも同じです。
しかし、第一回近代アテネオリンピック(1896年)のトラックは右回りでした。トラックの形が現在のものとは異なり直線部分が長かったようですが、それでも選手からは走りにくいと不評であったようです。
そこで、第2回パリオリンピックでは左回りが採用され、その後国際陸上連盟が走る方向は「レフトハンド・インサイド」として右回りはなくなりました。
私たちは、右利き・左利きに関係なく左回りのほうが走りやすいようです。なぜでしょうか。
これにはいくつかの説があります。人間の心臓は普通左にあるので左回りのほうが安心感がある。また、遠心力による心臓への負担が少ない。さらには、男性の睾丸は左が重いからというなんとも信じがたい説もあります。
実は、私たちが走るときに左回りが進みやすいのは、からだの左右特性によるものです。
まず、私たちの股関節は右より左に体重を乗せやすいという特性があるのです。例えば、「休め」の姿勢を思い出してください「気をつけ」・「休め」の「休め」です。どちらの足を移動させやすいですか。右足だと思います。
左足を移動させる「休め」の方法もありますが、それは軍隊で鉄砲を右に保持していたため、仕方なく左足を移動させていたなごりです。
また、幼児がやっと歩き出したころに、目標方向をしめさないで歩かせるとほとんど左方向へ進みます。これも左の股関節に体重が乗りやすいからです。
他にも、男女とも排尿をするときには徐々に左体重になるとの実験データもあります。
さらには、エスカレーターに乗るときには、日本全国ほとんど左に立ちます。左に立って急いでいる人が右側を通ります。
例外は関西地方です。右に立ちます。昔、私鉄の駅が混雑した時期に人為的に右に立つことを決めました。自然にまかせていれば関西地方も左に立っていたと思います。
左重心になりやすいからだの特性は、スポーツの動きにもあらわれています。
例えば、野球のバッティングフォーム。シーズン中はほぼ毎日プロ野球のテレビ中継がありますが、右バッターと左バッターでは明らかにそのフォームの傾向が異なります。
左バッターの代表といえば、前ダイエーホークス監督の王貞治氏、大リーグで成功したイチロー選手、日本では読売巨人軍の高橋良伸選手らです。
この3名の好打者に共通しているのは、ピッチャー側の足(右足)を長時間高く上げてタイミングを取ることです。つまり、左の股関節に体重を乗せ投球を待つことができるのです。
左バッターを観察すると、ピッチャー側の右足を上げてタイミングをとる選手が右バッターに比べて非常に多いことに気づきます。王選手の一本足打法や日本にいた頃のイチロー選手の振り子打法は、左股関節の特性をいかした打法であるのです。
また、左右の股関節にはさらに秘密が隠されています。それは、左股関節は外旋しやすく、右股関節は外旋しにくい特性をもつということです。
左バッターは、先に述べたように左股関節に体重が乗せやすいという特性を利用し、左に十分体重をかけた状態から右の股関節に重心を落としこんでスイングします。
右股関節に重心を落としても、右股関節は外旋しにくいために体が開くことなくボールをとらえることが可能になります。よって、左バッターは左軸(股関節)から右軸(股関節)へ十分重心を移動させ、ボールをとらえることができます。
近年多くみられる、踏み込んで前のポイントで打つこの打法は、左バッター独特の打ち方であるのです。
一方、右バッターが左バッターと同様に打とうとしてもうまくいきません。右股関節は左のように体重を十分に支えることができません。さらに、踏み込んで左軸(股関節)に十分体重を乗せると、外旋しやすい左股関節の特性により、体が早く開いてしまいます。
よって、右バッターは引っ張りすぎて3塁線からきれるファールが多くなります。この左股関節の特性を補うために、右バッターは右股関節に重心を残し気味にて打ちます。右軸へ重心を残しながらボールを十分引き付けて打つために、左足を開く動作をする選手を多く見受けます。
右バッターの代表である長島茂雄巨人軍総監督や山本浩二広島前監督、また3度の3冠王を獲得した落合選手も右軸を十分操作するために左足を開くという右バッター独特の技術を駆使していました。
このように、左右の股関節の特性を知っておくと動作のとらえかたも変わってくると思われます。左右の股関節の特性をよく知り、それぞれのスポーツの動きに活かしたいものです。
からだの左右について、体幹の特性もみてみましょう。皆さん、ちょっと正座をしてみてください。両手を頭の後ろあたりに組んで、両肘を張って体幹を左右にひねってみてください。どちらにひねりやすいでしょうか。
ほとんどの方は、右より左にひねりやすいはずです。これは、左右で筋肉のつき方が異なることや、内蔵の位置が関係しているとも言われています。
さて、からだの左右の特性についてみてきました。もう一度まとめてみます。
1、右股関節より左股関節に重心(体重)が乗りやすい。
2、左股関節は外旋しやすく右股関節は外旋しにくい(内旋しやすい)。
3、体幹(胴体)は、左にひねりやすい。
これらの特性を総合した法則を、常歩身体研究所では「右ネジの法則」と名づけています。右ネジと同じように、右に回るときに私たちのからだをしまり、左に回るときにはゆるみます。