2007年01月01日
常歩(なみあし)・二軸動作が、多くの選手に支持されてきた原因の一つが「感覚を大切にする」ということにあると思います。
いろいろな場所でお話してきたのですが、身体動作の習得には「不可視的な要素」の理解が不可欠です。そのなかの代表的なものが「感覚」です。言うまでもなく、人によって持っている「感覚」は様々です。
しかし、多くの選手が持っている最大公約数的な「感覚」というものがあります。この章では常歩・二軸動作を習得するためのヒントになる「感覚」を紹介していきます。
そのなかからご自分にあう「感覚」を見つけたり、それぞれの「感覚」をアレンジして動作習得に役立ててください。
それでは第1節は「二軸感覚」についてです。
「二軸感覚」という用語は常歩・二軸動作に関して最も多く使われています。それは、どのような感覚をいうのでしょうか。
常歩(なみあし)だからというわけではありませんが、最初は馬の話からいたしましょう。
競馬や乗馬をされる方であればご存知だと思いますが、馬がギャロップ(最も速い速度での歩様)で走るときにはどちらかの前肢を大きく前に出して走ります。
右の前足が先にでることを「右手前」、左の前足が先に出ることを「左手前」といいます。
これも馬によって得意、不得意があるようです。
ここで問題です。コーナーを回るときの馬の「手前」はどちらでしょうか。写真のように時計回り(右回り)のコーナーを走るとしましょう。この場合、どちらの「手前」が適しているのでしょうか。
正解は、「右手前」です。右前肢を大きく前にだしながらコーナーを回ります。
「左手前」と回答された方は、右に馬体を向けていきますから、反対側の左前肢で蹴るまたは押すとイメージされたのだと思います。この感覚が「中心軸感覚」です。「中心軸感覚」は中心軸を反対側の足で蹴って動こうとする感覚です。
右に動くときには左足、左に動くときには右足で蹴って動こうとします。
「二軸感覚」は馬の手前のように、重心を動きたい方向の脚(軸)に寄せていく感覚です。馬の手前は「二軸感覚」の代表的なものです。
コーナーを回る動きの感覚は人間でも同じです。右回りのコーナーは右に重心を落としこみ右半身が左半身を引っ張るような感覚で走ります。
このように右半身が常に前に出て歩いたり走ったりすることを「右の片踏み」といいます。逆に左半身が前にでる走歩行は「左の片踏み」といいます。
「片踏み」は左右どちらかの軸に重心を落として進みます。この動作も典型的な「二軸感覚」が必要です。
さて、馬が出たところで、馬の字がつく遊びといえば「竹馬」です。今の子供達や若い方はこの遊びを知らないかもしれません。竹の棒に足を乗せる棒を水平に固定し、その上に立って歩きます。遊びではなく実用的な用具としても使用されていました。
竹馬に乗ったことがある方ならご経験があると思いますが、竹馬は歩いているときの方が安定します。
二本の竹の棒で立っているのですから静止しにくいのは当たり前と言われそうですが、この感覚も常歩・二軸動作の特有の感覚です。
その二足ロボットの研究者の方々が注目している歩き方に「受動歩行」(パッシブウォーク)というものがあります。
このように重心の移動を利用して歩き(動き)続ける感覚が「二軸感覚」です。
歩いて(動いて)いるときの方が安定する感覚を「動的安定」といいます。反対に止まっている(静止している)ときに安定する感覚を「静的安定」といいます。
「動的安定」は「二軸感覚」、「静的安定」は「中心軸感覚」といえるでしょう。
2007年01月01日
第一章で「ナンバの誤解」をお話しました。よろしければもう一度読み返してください。
「右足がでるときに右手がでる、左足がでるときに左足がでる」
このナンバの動きは誤解されたものであることは学びました。
しかし、「ナンバ」の解釈としては誤解であっても、同側の手足が前にでることはとても大切な感覚なのです。この感覚を「同側感覚」といいます。
例えば、カメラを向けられて「走っているポーズをとってください」といわれたら、皆さんはどのようなポーズをとるでしょうか。
このように言ってポーズをとらせると、8割以上の人は同側の手足を前に出してポーズをとるのです。
このことに関しては、常歩身体研究所でも取り上げていますので、ご参考にしてください。
http://www.namiashi.net/article/13479761.html
実際の走動作は、右手と左足、左手と右足がほぼ同時に同方向に動くのですが、その動作をからだを静止させてポーズをとると多くの人が同側の手足を前にだします。
もう少し詳しく検討してみましょう。実際にやってみてください。右足を前左足が後ろ右自然体で立ってください。
右足(前足)に体重を十分乗せてください。左足のかかとは上げて結構です。そして、「右手が前で左手が後ろ」・「左手が前右手が後ろ」の二通りのポーズをとってみてください。どちらが安定するでしょうか。
右手が前・左手が後ろですね。
次に、後ろの左足に体重をかけてください。左の踵は接地してかまいません。 同様に二通りのポーズをとってみてください。今度はどうですか?。
「左手が前、右手が後ろ」の方が安定します。
つまり、私たちのからだは、体重が乗った側の肩と手が前方に位置(移動)する感覚があるのです。
次は、両足をそろえて左右に肩幅くらいに開いてたちましょう。そして、右足に体重をかけてください。先ほどと同じようにポーズをとってみます。右手前が安定します。
次は、左に体重をうつしてください。すると、左手前が安定します。
わかりにくい人は、椅子にすわった方がいいかもしれまえん。左右の股関節に重心を移しかえながら自然な手の位置の感じてみてください。
そして、少し速く左右に乗せかえてみましょう。左右の手(腕)は自然に前後にふられます。
これが「同側感覚」での走歩行の動きです。
慣れてくるととても心地よい感覚があらわれます。仕事の合間などに左右に揺れて「同側感覚」を楽しんでください。
例えば、一般に「走る」場合、右足着地で左足が振り出されるときは左腰が前方へ動きます。そこで、右肩または右腕を前方へ出して身体のバランスをとります。体幹(上体)を捻っているわけです。
しかし、トップ選手の「走り」では、右接地時の途中から右腰の前方への動きがみられることがわかってきました。
すでに学んだ、股関節の外旋・膝の抜き・踵を踏む感覚のフラット着地によって、同側の脚・腰・肩・腕の前方への動き(感覚)が現われるのです。
この左右の軸が押し出される「同側感覚」によって、ほとんど体幹(上体)を捻らない走りが実現します。さて、この「同側感覚」こその動きは、あらゆる場面や競技でみられます。
例えば、競輪選手(写真参照)はトップレベルの選手になると、同側の腰や肩を押すのです。決してハンドルは引きません。
写真をご覧ください。見事に片側の脚・腰・腕を突き出しています。
何か重いものを押してみましょう。壁でもいいと思います。どのような姿勢で押すでしょうか。最大の力を発揮して押したいときに両足をそろえて体の正面で押す人はほとんどいません。どちらかの足を前に出して同じ側の腰と肩を前方に押し出します。これも「同側感覚」です。
この「同側感覚」から生まれる動作を「半身動作」とも言います。しかし、これを「合理的身体操作」に応用するためにはさらに理解しておく内容があります。それは、「半身」で動作するときには、前足に体重がかかるということです。
せっかく「半身」姿勢を作っても後ろ足に体重がかかっては効率のよい動きにはなりません。言い方をかえると体重がかかっている側の腰と肩が前方に出るということです。
例えば、餅つきで杵を振り下ろす動作や畑を耕すときに鍬を振り下ろす動作をしてみてください。振り下ろすと同時に前足に体重が移動させ同側の腰と肩が前にでていきます。つまりからだの前に軸をつくりそれを押し出していくのです。。
あらゆる場面で「同側感覚」を感じてみましょう。
2007年01月01日
アウトエッジ感覚の誤解
常歩(なみあし)・二軸動作が著書などで紹介されるようになって、ある高等学校の陸上競技の指導者から、
「うちの選手が、親指や拇指球を地面から浮かせて立ったり、歩いたりして困っている」
というお話をお聞きしたことがあります。
たぶん、その学校の選手の皆さんは、私たちが書いた本や雑誌を参考にして「アウトエッジ感覚」を習得しようとされたのだと思います。
それほど極端ではなくても、ほとんど「インエッジ」(足裏の拇指球側)に足圧がかからないことが「アウトエッジ感覚」であると理解している方々も多いようです。
しかし、これは誤解です。
「アウトエッジ感覚」 は、言いかえると「フルフラット感覚」です。足裏全体を使う感覚のこと。
私たちが、なぜ「アウトエッジ感覚」という表現を用いたかといいますと、現在の人(特に若い方々)は、足裏のアウトエッジに乗ることができなくなっているからです。
「アウトエッジ感覚」は決して「インエッジ」を浮かすことではないことをまず理解してください。
足と「アウトエッジ感覚」
さて、現在の人々が「アウトエッジ」に乗ることができなくなっていると書きました。もう少し詳しく学びましょう。すこし、足の構造を知りましょう。
足部はとても複雑な構造をしています。全部で26個の骨からできています。
骨の名称は覚える必要はありませが、それら26個の骨が正常な位置におさまっていれば、足部にはアーチ(機能)が形成されます。
足部のアーチには縦アーチと横アーチの二種類あります。さらに縦アーチは内側縦アーチと外側縦アーチがあります。
しかし、現在の人々(特に若い年代や子供)は幼少時から緩衝性のある(柔らかい)ソールのシューズを履くので正常な位置に骨がおさまらないのです。それが、偏平足や外反母趾などの一因となっています。
しかし、専門家の中にも、逆の見解を持っている方々も多くおられます。
例えば、外反母趾で悩んでいる陸上選手(高校生)が整形外科で診察をうけたところ、子供のころにアーチ(土踏まずの位置が盛り上がった)があるシューズを履かなかったことが原因だと言われたといいます。
その話を聞き、私は耳を疑いました。
こんな風に考えてください。足部のアーチは接地(床)したときのクッションの役目をします。このアーチ(機能)は、子供のころにかたい床や地面を歩く(行動する)ことによって出来上がってきます。
柔らかいソールのシューズを履けば、足自体のクッション性が必要ありませんからアーチ(機能)が十分に形成されません。
現在の人々(若い年代や子供)は、足部の骨が正常な位置に整っていない人が多いのです。多くは、足が踵骨から内側に滑り落ちた「過剰回内」という状態です。
極端にかくと、左の画像のような状態です。
イメージしてください。このような「過剰回内足」で立てば「インエッジ」には足圧がかかることがあっても「アウトエッジ」にかかることはありません。
さらに、このまま歩行すればCOP(足圧中心点=足圧が最も強い点)が「アウトエッジ」を抜けることもありません。
歩行や走行で着地(接地)するとすぐに拇指球側で支えることになります。膝も内側に倒れこみますから、股関節が内旋位でかたまることになります。外旋方向の動きが出にくくなります。
このように「過剰回内足」の人は、「アウトエッジ」を全く使えなくなっています。
そこで、私たちは足裏の外側を意識させる「アウトエッジ感覚」を提唱したのです。
実際に、足部が正常であれば自然に「アウトエッジ」で立つことできますし、歩行や走行動作でCOP(足圧中心点)は「アウトエッジ」から内側に入り拇指球をぬけることになります。
ここで大切なのは、COP(足圧中心点)は必ず拇指球を抜けていくということです。「アウトエッジ感覚」を意識するあまり拇指球を浮かせたまま歩いたり走ったりするのは間違いです。
必ず、最後は拇指球に乗って足は離地します。
どうしても常歩(なみあし)や二軸の感覚や動きがでない方々は、足部を見直すことが必要かもしれません。足の骨の状態を正常に戻す必要があります。
体幹と心のアウトエッジ感覚
さて、「アウトエッジ感覚」についてもうすこし話を進めましょう。
足部の「アウトエッジ感覚」が出てくれば、その感覚は体幹にも現れてきます。よくトップ選手らが「わき腹の感覚」などといったりします。
「左右のわき腹から足が動く」とか「わき腹で水をとらえる」などと表現します。身体の左右の感覚ですから、二軸感覚と言ってもいいと思いますが、体幹の「アウトエッジ感覚」ともいえるでしょう。
また、あるとき「バレエ」のダンサーの方と話をしていました。
「バレエ」は、「股関節の外旋」や「踵を踏む」感覚、さらには「アウトエッジ感覚」など常歩(なみあし)・二軸動作と共通点が多いのです。
そのダンサーの方が興味深いことを言われました。
「アウトエッジや外旋の感覚によって、心(精神)が解放される」といわれたのです。実は、私たちも同じことを以前から話していました。
インエッジの感覚や動きは心を閉ざす、アウトエッジの感覚や動きは心を開く。
スポーツや武道をされる方々の中には、例えば集中力をいうのは心(精神)が一点に集まる(集中する)ことだと理解しているかもしれません。
しかし、多くのトップ選手らにお話を聞くと、集中するとはそうではなく逆に心(精神)が開かれた状態のようです。
ダンサーの方は、本来の集中は身体の「アウトエッジ感覚」から生まれるといわれたのです。
身体の動きや感覚は心や精神状態をもつくりだすようです。
2007年01月01日
逆振り子
このページでは「またぎ感覚」について学びましょう。「遊脚感覚」ともいいます。
まず、逆振り子について理解しましょう。
皆さんに質問します。
走歩行(歩いたり走ったりすること)のときの、からだの支点はどこでしょうか?。支点とはからだの中で最も動かないところという意味です。
多くの方は「脚の付け根」・・「股関節」と答えます。
つまり、「股関節」と支点として左右の脚が前後にスイングしているとイメージします。
確かに、そのイメージは間違いではありません。しかし、合理的な動きを身につけたり、動きをみるときにはもう一つの支点をイメージする必要があります。
もう一つの支点とはどこでしょうか?。
それは足部です。地面と接している着地脚側の足部は実際に動きません。
私たちは、「股関節」を支点として脚を後方にスイングしているとイメージします。 しかし、実際には着地脚は後方にスイングしているのではなく、足部を支点として前方へ移動しているのです。
後方スイングとは「股関節」を基準としたときのとらえ方です。
着地脚の足部を支点とした逆振り子をイメージしてください。膝も腰も体幹も全部が前進しているのです。
逆振り子が理解できましたでしょうか。 この原理がわかると、動きの意識と感覚が違ってきます。
股関節が支点であると感覚してる(意識している)と、足部が力点であると感じます。つまり、股関節を支点(基準)として足部で地面を蹴るまたは押す感覚の動きになります。
しかし、逆振り子の原理によって足部が支点であるとわかれば、足部は力を加えるところではないことが明確になります。足部をそのままにして膝や腰(股関節)や体幹が動く(移動する)のです。
これら二つの動き方は、一見同様に見えますが、動作の質は全く異なることになります。そして、足部を支点として動くときに大切なのが、反対側の遊脚の動きなのです。
すこし動いてみましょう。片足立ちで静止してください。その状態からケンケンの要領で一歩前に進んで(跳んで)ください。
遊脚を使う感覚がないと、着地足で地面を蹴って跳ぼうとします。しかし、遊脚の感覚があると、着地足はそのまま(支点)にして遊脚を前方に振りこんで跳ぼうとします。
感覚的には着地足で地面を蹴らない感覚になります。(実際には、地面反力をもらっています。)
上の動画は遊脚を使わない場合、下は遊脚を前方に振り込んでいます。
スポーツなどの実際の動きでは、顕著にその差はあらわれませんが、この二つの動作を行ってその違いを比較してみてください。
全く異なる感覚であることがわかると思います。
この遊脚で動く操作も武道(武術)では、基本的な動き方です。是非、取り入れたい操作です。
またぎ感覚
逆振り子と遊脚感覚がわかると、さまざまな動作は遊脚で操作できることができることがわかります。
例えば、二直線歩行とよくいいます。常歩(なみあし)・二軸動作の基本とされる歩行ですが、このトレーニングで二直線上を歩かせると失敗することが多いようです。
2本のラインを引いてその上を左右の足を踏ませるのではなく、直線を左右の足が踏まないように歩かせる(走らせる)といい動きになります。
2直線上歩踏ませると、着地足側の意識や感覚が強くなります。一方、直線をまたがせると遊脚の意識が強くなります。実際に、体育館や道路などのラインや板目を利用して歩いてみてください。まったく異なる感覚になります。
これは走動作も同じです。やはり、直線をまたがせた方がいい動きになります。
あらゆる種目のトレーニングで、この遊脚を意識させることは動きをつくるときの必須条件だと考えます。
例えば、近頃ラダーやミニハードルを用いたトレーニングが盛んに行われていますが、それらも遊脚のまたぎ感覚を養成するためのいいトレーニングです。
遊脚が軸になる
常歩(なみあし)・二軸動作の代表的感覚といえば「遊脚が軸になる」こと。
常歩身体研究所のHPでも取り上げています。下の記事をご一読ください。
http://www.namiashi.net/article/13343494.html
http://www.namiashi.net/article/13343488.html
「遊脚が軸になる」感覚は、常歩・二軸動作の動きがあらわれてくると自然と理解できる感覚です。
動きの3要素があります。「動き」「力の方向」「感覚」です。 「遊脚が軸になる」感覚は、特に連続動作には重要です。
例えば、走動作においてすばやく重心移動をするためには、「力の方向」が遊脚側にシフトしていることが必要なのです。つまり、骨盤や体幹の位置を利用して重心を遊脚側に落とす必要があるのです。「力の方向」は「動き」を先取りしなければなりません。
そして、さらに「感覚」は「力の方向」を先取りするのです。
動作「感覚」⇒「力(の方向)」⇒「動き」の順番です。目に見える「動き」は最後にあらわれます。
「遊脚が軸になる」感覚によって、スムーズな重心の切り替えが可能になります。
2007年01月01日
第4章の最後に、 研究会で最も重要視している感覚をとりあげます。例えば、陸上競技のトラックでコーナーを走っているとイメージしてみましょう。頭部をどのように傾けますか。
剣豪、宮本武蔵は「五輪書」の中で、頭部の保ち方について、「鼻筋直にして」と表現しています。頭部を垂直に保つことの重要性を説いています。
さらに、調べてみますと、太極拳や中国武術では「二目平視」という教えが伝承されています。左右の目を水平に保つことを言った教えですが、武蔵のいう「鼻筋直にして」と同様の内容だと思われます。
頭部を左右に傾けないことは、スポーツなどにおいても重要な感覚(身体操作)なのです。頭部を左右に傾けることなく、両目を水平に保つ感覚(操作)を水平感覚といいます。
例えば、バイク(二輪車)に乗っているとイメージしてみましょう。実際にバイク(二輪車)を運転される方もおられると思います。コーナーを走っていると想像してください。バイクが倒れるとともにからだも傾きます。しかし、トップライダーはからだが倒れても頭部を垂直に保ちます
自転車競技でも同様です。写真は北京オリンピック銅メダリストの永井清史選手です。競輪競技ではバンクが傾いていますので平地に比べて自転車も深く傾くことになります。それでも、頭部はほぼ垂直に保たれています。
陸上競技のコーナー走も同様です。写真は、男子100メートルの世界記録保持者ボルト選手のコーナーリング(走り)です。周囲の選手と比較してください。ボルト選手の頭部が垂直に保たれていることが分かります。彼が本来200メートルを得意としている一因はこの頭部の傾きにあるのかもしれません。
さて、「水平感覚」というと、頭部を完全に垂直に保つと理解する方が多いと思います。しかし、頭部の位置や傾きにはもう少し工夫が必要です。
イチロー選手の写真をみてください。バッターボックスでバットを立てるおなじみの姿です。頭部の傾きに注目してください。頭部は垂直に保たれているでしょうか。垂直ではなく、すこし後方に傾き、あごが少し出ているように見えます。また、ボルト選手の写真をもう一度見てみましょう。同様にあごが少し出て頭部が後方に傾いています。
武蔵は、「鼻筋を直にして」とともに「頤(おとがい)」を出す」といっています。頤とはあごのことです。武蔵の教えとイチロー選手やボルト選手の頭部の保ち方は一致しています。
この頭の傾きをまねてみてください。これには少しコツがあります。あごを上げるイメージではなく出してみてください。
あごを上げるのではなく、頭部全体をすこし前に出すようにするのです。この頭部の保持によって、肩甲骨周辺の筋群が緩んでとても動きやすくなります。
歯学の一領域で、かみ合わせについての研究分野である咬合学(こうごうがく)では、基準面として「フランフルト平面」と「カンペル平面」があります。
「フランクフルト平面」とは、外耳道の上縁と眼窩下孔の下縁を結んだ線です。耳穴と目の下を結んだ線(平面)と理解してください。この「フランクフル平面」は一般的に立位姿勢で地面と水平になる平面です。
一方、「カンペル平面」は鼻聴導線ともいい鼻下点から耳珠点を結んだ線です。耳珠点とは外耳道の顔側にあるでっぱりですが、耳穴と鼻穴の下を結んだ平面と理解していいと思います。
この「カンペル平面」は咬合面(かみ合わせの面)と平行であるとされています。
スポーツなどでの頭部の保持は「カンペル平面」が地面と平行になるようにするといいようです。