2007年01月01日
それではいよいよ、中心軸と二軸について学びましょう。
2003年ごろから私たちは、常歩・二軸動作を提唱していますが、中心軸や二軸に関してはおおかた二つの意味で使われています。一つは動作を語ったり理解したりするときに動きの基準として考える中心軸や二軸です。
もう一つは、実際に私たちが動くときに感じる感覚としての軸、つまり軸感覚です。
軸感覚(中心軸感覚・二軸感覚)については、おって触れることにして、ここでは動きの基準(動きの考え方)としての中心軸と二軸についてお話ししましょう。
日ごろ、身体の軸など考えたことがない人でも、「あなたの身体の軸はどこにありますか」と聞かれたらほとんどの方が頭の上から両足の中心を結ぶ線(軸)を想像すると思います。
この身体を串刺しにした想像上の線を中心軸ということにします。
ヒトは四足歩行から二足歩行になったと考えられています。そのとき、歩くことより、まず立つということが優先されたと思われます。歩くことの前に上手に立つことを覚えなければなりません。
これは赤ちゃんが立ち上がって歩き出すときと同じです。
伝い歩きしていた赤ちゃんが、両手を離して歩き出すときもまずバランスをとり(立ち)、そして歩き出します。
立っているときに、私たちの身体の重心は、おへそあたりの体の中にあります。その重心から地面に垂線を下ろし、その交点が両足がつくる支持面の内側にあれば倒れません。そして、最も安定して立つというのは、支持面の真ん中(中央)に垂線が落ちる場合です。
私たちは無意識に重心から両足の中央を通るラインを感じることになります。これが中心軸です。
つまり、私たちが無意識のうちに感じている中心軸とは動くための基準ではなく、安定して立つための基準なのです。
さて、中心軸が立つ(静止する)ための基準であることを確認して、動作を考えてみましょう。
ここでは、動作のなかで最も基本的な走歩行を例に考えます。
中心軸を基準としたまま、走歩行するとどのような動きになるでしょうか。中心軸を基準としたまま体を前へ進めようとすれば、下肢で中心軸(体)を押し出す動きになります。さらに中心軸を保とうとしますから、振り出された足を自分の重心(中心軸)の真下に接地させようとするのです。
このときの骨盤の動きを想像してください。
振り出された脚と同側の骨盤(腰)が前方に動くように回転します。この骨盤の回転を補償するために、反対側の腕を前方にふりこんだり、肩を骨盤の回転とは逆方向に動かします。
つまり、中心軸を基準とした動作はからだ(体幹)をひねる動きになるのです。
これは、走歩行だけではなく他の動作でも同様な傾向の動きになります。
それでは、二軸を基準とした走歩行を考えてみましょう。
二軸とは左右軸です。中心軸を維持しながら(中心軸に重心を置いたまま)動くのではなく、からだの左右の軸に重心をうつしながら前進します。
中心軸の走歩行が、骨盤と肩を左右交互にねじりながら足をクロスに入れる傾向があるのに対して、二軸(左右軸)での走歩行は左右の足幅(歩隔)はおよそ骨盤幅を保持したままそれぞれの足を2本のレール上を運ぶイメージです。
それぞれの足が二直線上を進むことによって、体幹のひねりがおさえられます。中心軸での走歩行での脚と骨盤の動く方向を思い出してください。
脚と同側の骨盤はほぼ同方向に動きます。右足が前方にふり出され、左足が着地している間は骨盤の左側(左腰)が後方に動きます。
しかし、二軸での走歩行では骨盤の動きが多少異なります。左足が着地し右足がふり出されるときには、中心軸基準の走歩行ほど骨盤(左腰)が後方に動きません。
途中から骨盤(左腰)が前方へ動く場合もあります。(個人差や歩行・走行によっても多少異なります。)
つまり、着地足側の骨盤(腰)が前方へ動く力が加わるのです。この骨盤の動きによって、着地足が離地した後、すばやく前方に切りかえされます。
さらに、ここで重要な役割をするのが股関節なのです。股関節に外旋力が働くことにより、この骨盤の動きが顕著になります。(股関節の外旋や外旋位については、次章で詳細に学びます)
上のデータは2003年、奈良先端科学技術大学院大学ロボティクス講座との共同研究で通常歩行(中心軸基準)と常歩歩行(二軸基準)の動作分析の結果の一部です。
上段のグラフで、黒は腰の動き、赤は肩の動きをあらわします。通常歩行(中心軸基準)では、腰を肩はほぼ逆にひねられていますが、常歩歩行(二軸基準)では、ほぼ一致しからだ(体幹)のひねりがおさえられていることがわかりました。
さて、中心軸と二軸を基準とした動き(走歩行)についてお話してきました。
よく、動きや走歩行を中心軸動作・二軸動作と分けてしまうことは乱暴であるというご意見をいただきます。たしかに、私たちの動きをどちらかに当てはめてしまうことは不可能です。
しかし、あらゆるスポーツや競技で中心軸・二軸という概念を用いることによって、これまで不明瞭であった動きの違いが説明できるようになったことも事実です。左右への重心移動を説明することによって、合理的な動きの説明ができるようになったのです。