2007年01月01日
第4章の最後に、 研究会で最も重要視している感覚をとりあげます。例えば、陸上競技のトラックでコーナーを走っているとイメージしてみましょう。頭部をどのように傾けますか。
剣豪、宮本武蔵は「五輪書」の中で、頭部の保ち方について、「鼻筋直にして」と表現しています。頭部を垂直に保つことの重要性を説いています。
さらに、調べてみますと、太極拳や中国武術では「二目平視」という教えが伝承されています。左右の目を水平に保つことを言った教えですが、武蔵のいう「鼻筋直にして」と同様の内容だと思われます。
頭部を左右に傾けないことは、スポーツなどにおいても重要な感覚(身体操作)なのです。頭部を左右に傾けることなく、両目を水平に保つ感覚(操作)を水平感覚といいます。
例えば、バイク(二輪車)に乗っているとイメージしてみましょう。実際にバイク(二輪車)を運転される方もおられると思います。コーナーを走っていると想像してください。バイクが倒れるとともにからだも傾きます。しかし、トップライダーはからだが倒れても頭部を垂直に保ちます
自転車競技でも同様です。写真は北京オリンピック銅メダリストの永井清史選手です。競輪競技ではバンクが傾いていますので平地に比べて自転車も深く傾くことになります。それでも、頭部はほぼ垂直に保たれています。
陸上競技のコーナー走も同様です。写真は、男子100メートルの世界記録保持者ボルト選手のコーナーリング(走り)です。周囲の選手と比較してください。ボルト選手の頭部が垂直に保たれていることが分かります。彼が本来200メートルを得意としている一因はこの頭部の傾きにあるのかもしれません。
さて、「水平感覚」というと、頭部を完全に垂直に保つと理解する方が多いと思います。しかし、頭部の位置や傾きにはもう少し工夫が必要です。
イチロー選手の写真をみてください。バッターボックスでバットを立てるおなじみの姿です。頭部の傾きに注目してください。頭部は垂直に保たれているでしょうか。垂直ではなく、すこし後方に傾き、あごが少し出ているように見えます。また、ボルト選手の写真をもう一度見てみましょう。同様にあごが少し出て頭部が後方に傾いています。
武蔵は、「鼻筋を直にして」とともに「頤(おとがい)」を出す」といっています。頤とはあごのことです。武蔵の教えとイチロー選手やボルト選手の頭部の保ち方は一致しています。
この頭の傾きをまねてみてください。これには少しコツがあります。あごを上げるイメージではなく出してみてください。
あごを上げるのではなく、頭部全体をすこし前に出すようにするのです。この頭部の保持によって、肩甲骨周辺の筋群が緩んでとても動きやすくなります。
歯学の一領域で、かみ合わせについての研究分野である咬合学(こうごうがく)では、基準面として「フランフルト平面」と「カンペル平面」があります。
「フランクフルト平面」とは、外耳道の上縁と眼窩下孔の下縁を結んだ線です。耳穴と目の下を結んだ線(平面)と理解してください。この「フランクフル平面」は一般的に立位姿勢で地面と水平になる平面です。
一方、「カンペル平面」は鼻聴導線ともいい鼻下点から耳珠点を結んだ線です。耳珠点とは外耳道の顔側にあるでっぱりですが、耳穴と鼻穴の下を結んだ平面と理解していいと思います。
この「カンペル平面」は咬合面(かみ合わせの面)と平行であるとされています。
スポーツなどでの頭部の保持は「カンペル平面」が地面と平行になるようにするといいようです。