屈曲動作でスイングする

2018-04-02

 当研究所の活動目的の一つは、すべての身体動作に共通した原理を追求・整理することにある。その原理をどのように呼ぶか、名づけるかは運動者のイメージを決定づける。

 2軸動作・なみあし(常歩)として紹介してきたのだが、最近では「屈曲動作」ということが多くなった。歩行動作などの日常動作からあらゆるスポーツなどの技術まで時代が下るほど、カラダを伸展方向に使うイメージが強くなっている。

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 屈曲動作という観点であらゆる動作を再考しているが、ゴルフスイングも興味深い。現在の多くのプロはダウンスイングで左ひざを伸展させている。ダウンスイングでは地面方向にカラダが落下していくので受動的に伸展させるのか、または左方向へのカラダの回転を止めるために膝を伸展させて股関節を内旋させることでブレーキをかけているのか、などと考察していた。

 最近、当研究所のセミナーにもご参加いただいている平尾プロ(右)とご一緒にゴルファーの指導に携わっておられる羽鳥トレーナー(左)と意見(情報交換)をさせていただいている。

 伸展動作でのスイングが主流になっている中、お二人は屈曲動作によるスイングを指導されている。動画は言うまでもなく青木功プロのスイング。まだ、動作研究に着手する前から独特のスイングであると認識していたが、改めて観ると究極の屈曲動作である。屈曲傾向のスイングでも他のプロはフィニッシュで股関節は伸展するのが一般的であるが青木プロの左股関節はフィニッシュでも屈曲位が保たれている。

 歩行動作に代表されるように、伸展による動作が「かっこいい」「スマートである」「正しい」というようなイメージが植えつけられていった。しかし、伸展動作はカラダを酷使する動作法である。屈曲動作を見直す時期ではなかろうか。2軸というイメージ(感覚)は屈曲動作を発現させるための一つの感覚ととらえるとスッキリする。

順回転歩行をマスターしよう。

2018-03-21

 身体操作の基礎は「歩行動作」です。なみあし身体研究所では「交差型」の歩きを教えてきました。「交差型」とは、右手と左足、左手と右足がほぼ同時に同方向に動く歩きです。いわゆる、一般的な歩きです。私は「逆回転歩行」といっています。肩が逆に回転するようなイメージなるからです。

 しかし、歩行は様々な形があり「順回転歩行」(上の動画参照)があります。これは私が命名した歩行形態ですが、同側の手足がほぼ同時に動きます。しかし、左右の半身を入れかえる、いわゆる「ナンバ」ではありません。この「順回転歩行」こそ様々な動作に転化する歩きの基本だと思われます。

 「逆回転歩行」は静止することが苦手です。「順回転歩行」を習得すると動作の中で止まれるようになります。静と動が交互にあらわれるような動作は「順回転歩行」をマスターすると容易になります。

 そして、連続動作でも「順回転歩行」が有効な場合もあるようです。先日、セミナーに「カヤック」の日本代表選手がお見えになっていました。「カヤック」のパドリングの全身動作は「順回転歩行」で習得できそうだといわれていました。是非、「順回転歩行」を習得しましょう。身体操作がさらに容易になります。

平昌オリンピックで学ぼう

2018-02-06

 2月9日(金)より、平昌オリンピックが開催されます。楽しみにされている方も多いのではないでしょうか。ウインタースポーツからも多くのことを学んできました。

 動作の構築に「荷重」や「抜重」という観念を取り入れたのもスキーやスノーボードの影響です。一般的な武道やスポーツにはそれらの教えはありませんでした。

 さて、ユーチューブをみておりましたら、長野オリンピックの清水宏保選手の動画を見つけました。動作を勉強し始めたころを思い出しました。スピードスケートの滑走は合理的身体操作を学ぶには格好の動作です。

 まず、スケートは着地脚のつま先や膝がしらが向いている方向にカラダを進めることはありません。特に、スタートからほぼトップスピードにのるまでは、着地脚のつま先とかかとを結んだラインからほぼ90度の方向に重心を移動させていきます。このことは実は動作の基本です。

 静止状態から前進するとき、もしくは低速度で前進するときには理論的には90度ですが、からだの移動が高速になるにしたがいその角度が狭められます。

 そして、腕の振り込み角度も興味を惹かれます。なぜ、上から見るとハの字型になるように大きく振り込むのでしょうか。これも体幹の移動と関係がありそうです。

 清水宏保選手が長野オリンピックで金メダルを獲得した前後、あるアメリカの陸上短距離の有名コーチが「日本の選手はなぜ清水選手を模範にしないのか?」と言ったそうです。

 常に他競技に学ぶことは大切です。私も、平昌オリンピックで動作を再確認していきたいと思います。

走りを止まって表現すると・・・

2018-01-14
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 さて、この写真は何かというと、「走っているところを止まって表現して・・」と伝えてポーズをとってもらったものです。

 お互いに相談したわけではありません。「走っているところをポーズであらわしてみて・・・1,2,3、ハイ」とシャッターを切りました。3人とも見事に同じポーズをとりました。

 しかし、よく考察してみると走動作の中でこの局面はありません。しかし、このポーズは動作の本質をよく表しているのです。着地脚側の腰と肩と腕が前方に出ていこうとしています。

 実は、このポーズを左右繰り返すと走りになります。

シューズに走法を合わせる時代到来か?

2018-01-09
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 今年の箱根駅伝、青山学院大学の4連覇で幕を閉じましたが、陸上関係者の間ではシューズに大きな関心が集められていたそうです。多くの選手が初心者ランナー向けとも見える厚底のシューズを履いていたのだそうです。これまでは、長距離のトップ選手はソールが薄いシューズを履くことが一般的でした。

 関係者の中でその厚底シューズが話題になったのは、昨年10月の出雲駅伝。優勝した東海大学と4区までトップ争いをした東洋大学の主力選手たちが、こぞって厚底シューズを履いて走っていたのです。そのシューズはナイキの「ズームヴェイパーフライ4%」(写真)。

 このシューズは、昨年4月に世界屈指のメジャーレースであるボストンマラソンで3位に入る快挙を達成した大迫傑(おおさこ・すぐる、ナイキ・オレゴンプロジェクト)選手が愛用しています。さらに、大迫選手が現役日本人最速となる2時間7分19秒(日本歴代5位)で3位となった福岡国際マラソンでは、大迫を含む1位から4位に入った選手がすべて同シューズを履いていたことで一躍脚光を浴びることとなりました。

 実際に履いてみると、クッション性が高く、トラックでスパイクを履いているような感覚があり、一歩一歩の衝撃も少ないのでマラソンの後半の脚を残すことができるらしいのです。

 ナイキによると、「ズームヴェイパーフライ4%」は同社のマラソン用スピードシューズである「ズームストリーク6」との比較試験に基づき、ランニング効率を平均「4%」高めることを目標として開発されたといいます。何といってもその特徴はソールの厚さです。同シューズのソールはかかとの部分の厚みが3.3cm。ソール内部には、スプーンのような形状をしたカーボンファイバー(炭素繊維)製のプレートが埋め込まれ推進力を生み出しています。

 推進力を生み出す素材が埋め込まれていることから、一部では「ドーピングシューズ」「ジャンピングシューズ」と揶揄(やゆ)する声もあるようですが、国際陸上競技連盟の規定には違反していない新発想のシューズなのです。

 ただ、難点は価格と耐久性の低さ。2万5920円(税込)とランニングシューズとしてはかなり高額なのですが、一般的なランニングシューズの交換タイミングが500〜700kmとされる一方で、ズームヴェイパーフライ4%の耐用距離は160km程度といわれています。それでも注文が殺到、特殊な加工が必要なこのシューズは、製造できる工場が限られており、供給が追いついていない状態だといいます。

 さて、今回のシューズの課題を動作学の立場から少し考えてみました。スポーツ方法学の観点からは、道具が変わればそれにともなって技術が変容することは常識です。私の専門は剣道ですが「日本刀」「木刀」「竹刀」とその媒介(道具)が変化したことにより技術が変容してきました。

 動作を考察するときには、この道具と技術の関係をみることは必要不可欠なのですが、これまで走動作については常に技術が道具(シューズ)を先導していたと思われます。換言すれば、道具(シューズ)が主役に躍り出ることはなかったと思われます、シューズ開発の目的は技術を補うことといえるでしょう。しかし、今回の「ズームヴェイパーフライ4%」の出現により走動作の技術と道具の関係が主客転倒した感があります。 

 いよいよ走動作も道具(シューズ)に適合した技術が求められる時代に突入したのかもしれません。

ステップワークを習得する

2017-12-13
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 特別セミナー「奇跡のステップワーク」のスライドを作成中です。武道・武術ではステップワークは「足さばき」「体さばき」といいます。「体さばき」という表現から下肢だけでなく体幹や上肢を操作する必要があることが分かります。

 ステップの基本は歩き。様々なステップに転化させることができる歩行は「順回転歩行」です。これまで公開してきた「二軸歩行」「二軸歩行」の中の「逆回転歩行」です。ストップやターンを操る様々なステップに転化させるには「順回転歩行」とそれを発展させた「三軸歩行」を習得すると容易になります。

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 多くの分野や競技のステップを研究すると、それらの分野によって使っているステップが違います。他分野から取り入れると有効と思われるステップも多いものです。その中の一つがリバースステップ(写真)。軸足の位置を素早く変えてカラダと支持点の距離をとります。それによって、初動がスムーズになります。リバースステップバックフロントサイドサイドターンクロスクロスターンなど様々なステップと組み合わせて使えます。写真は、クロスターンによるリバースステップです。

 リバースステップは、サッカーや野球の外野手のスタートでよくみられるステップです。

不可視的要素の操作で動作は激変する

2017-10-27
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 10月21日(土)では特別セミナーで「力はどこにあるか」を開催しました。

 これまで、カラダに作用する力は「筋力」・「重力」・「地面反力」と説明してきたのです。しかし、剣道実践や動作法を検討すると、それだけでは説明できない「力」が存在します。

 それらは、「体感覚」・「目付け」・「意識(無意識」・「感情」・「呼吸」・「拍子」などを操作することによって発動するのです。これらの要素を私は「不可視的要素」と言ってきました。「見えない要素」または「データ化できない要素」という意味です。

 セミナーでは、これらを操作することで不思議な力が発動することを体験していただきました。一般的に、これらの操作は難しいと思われていますが、そうではないのです。ある程度、どなたでも発動させることができるのです。この「不可視的要素」を操作して発動される「力」を知ることが、動作法を理解する肝だと思われます。

認定インストラクターによるセミナーがスタート

2017-10-01
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 9月30日(土)、動作改善普及センターの活動が新たな1ページを迎えました。東京で開催されました「基礎セミナー」での実技で、認定インストラクターの清水修氏と松田孝司氏に講習をお願いいたしました。

 私(木寺)の補助ではなく、実技セミナーのすべてをお二人にお任せいたしました。非常にわかりやすい実技指導で私自身も勉強になる箇所が多々ありました。また、受講者の方々も熱心にご受講いただきました。ありがとうございました。

心技体とは

2017-09-21
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 近年、スポーツ界ではメンタルトレーニングなどが注目されています。また、スポーツ以外でも思考法や考え方を学ぶ「コーチング」を受ける人も増えています。それらで、劇的にパフォーマンスや日常生活・人生を変容させることも珍しくありません。 しかしながら、期待する効果が得られない方々も多いようです。

 武道などでは「心技体」という言葉(教え)が伝わっています。この教えを精査してみると取り扱いが難しい順であることがわかります。そして、上の図のように「心」の土台は「技(動作)」であり、「技(動作)」の土台は「体」です。言い方を変えると、習得の順序は「体」⇒「技(動作)」⇒「心」です。

 この修行の順序を間違うと、「心」の課題まで到達できないと思われます。

桐生選手、10秒の壁を破る・・・新記録おめでとう

2017-09-10
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 9日、陸上・日本学生対校選手権 男子100メートル決勝で東洋大学の桐生祥秀選手が、9.98をマーク。日本人ではじめて10秒の壁を切った。

 京都・洛南高3年だった4年前に10秒01を出してから日本陸上界を背負ってきた。その間、多くの陸上関係者に桐生選手の話をお聞きした。異口同音に将来10秒を切ることは間違いない・・問題は、いつ切れるかだ、ということだった。

 しかし、6月の日本選手権男子100メートルで、サニブラウン・ハキーム(東京陸協)、多田修平(関西学院大)、ケンブリッジ飛鳥(ナイキ)に次ぐ4位。8月のロンドン世界選手権は個人種目での代表を逃した。日本人初の10秒切りは他の選手かもしれないと思わせた。

 さらに、ロンドン世界選手権大会でリレーで銅メダルを獲得したものの、左の太もも裏を痛め、その後、満足な練習はできなかったらしい。このレースも直前まで棄権することも検討されたという。そのような逆境の中での偉業達成であった。

 さて、桐生選手の9秒台達成や近年の男子短距離界の充実について、元日本陸連強化委員長の高野進氏が新聞紙上に「日本人の走り追求し成果」として寄稿している。その中で、次のように述べている。

 91年に東京で開かれた世界選手権が転機だった。この頃から、日本短距離界ではバイオメカニクス(動作解析)で得られた知見が選手、コーチに正確に伝わり、適切なイメージを持てるようになった。それによって日本人に合った走りを追求する動きが生まれた。具体的には接地時にタイミングよく「乗り込み」、上手に反発力を受け取って効率よく推進力につなげる走法。多くの指導者が情報を共有して次世代に伝え、才能を持った桐生選手が現れ、現在の充実につながったのではないかと思う。

 そして、他の新聞紙上やネットなどでは、桐生選手のリミッターが外れたとの記述も散見される。さらに、この快挙で、日本人選手らの「10秒は切れない」という無意識のうちに共有していたリミッターが外れたはずだ。今後、日本人選手の9秒台が頻繁にみられるかもしれない。

戦前までは歩行者は左側通行だった・・・・

2017-09-06
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 『正常歩』(大谷武一著・目黒書店・昭和16年)は学校体育での歩行訓練の必要性と方法を説いた名著です。大谷武一が提唱する「正常歩」は、現在の集団行動指導にみられるような歩行形態ではなく人の移動に主眼を置いています。まっすぐに垂直に体幹を保つことの大切さは述べられていますが、エネルギー消費の少ない歩き方が推奨されています。「正常歩」の詳しい内容は別の機会に譲るとして、同書に上のような写真が掲載されています。当時の女子生徒らの通学時などの様子です。どれも左側を通行しています。

 さて、歩行者が右側通行と法令で定められたのは戦後です。戦前までは左側通行でした。先ず江戸時代も左側通行だったようです。武士は左に帯刀していたためすれ違うときに鞘が触れないように左側を歩いたともいわれています。実際には、左側を歩いていたのではなく、すれ違う際に左に避けたのであろうと思われます。

 実は、終戦まで左側通行というのは正確ではなく、昭和22年に道路交通取締法が制定されたのですが、ここでは人、車ともに左側通行が決められました。しかし、昭和24年に第一次改正が行われ、ここで「人は右、車は左」の対面交通が始めて取り入れらました。当時は連合軍の占領下にあり、GHQのかなり強い指導があったと考えられます。

 米国の交通ルールは「人は左、車は右」。当然、GHQは当初「人は左、車は右」の対面交通を指導したようです。しかし、そのように変えるためには、公衆交通機関のバスなどの乗降口を逆につけかえる必要があるし、車のハンドルも左につけるほうが便利なため、当時の日本の経済力では実施が困難と判断され、「人は右、車は左」の対面交通を実施することに決定したと言われています。

 しかし、私たちはいまだに左側の方が歩きやすいらしいのです。。ネット内に次ぎのような書き込みがありました。

 「そこで改めて気づくのは歩行者の交通ルールである。混雑している東京の繁華街、新宿や渋谷を歩いてみよう。右側を歩けばまず人にぶつかるか、突き飛ばされる。ときには怒鳴られることもある。大部分の人が左側を通行している。右側を通行している歩行者は絶対少数派である。私は機会があるごとに、歩行者は右側通行か、左側通行かと聞いてみるが、老若には関係なく約70%の人が「左側通行」と答える。」

  人は左側を歩く方が自然なのかもしれません。私自身も無意識に左側を歩いていることが多いように思います。皆さんはいかがでしょうか。

「一本」とは何か

2017-05-09
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 スポーツ学概論(1年生対象)の講義で「一本」の意味について取り上げました。

 まず、「サムライスピリット(柔道編)」というDVDを鑑賞させます。これは、極真空手前ヨーロッパチャンピオンのニコラスぺタス氏が、日本の武道を紹介していくシリーズでヨーロッパで放映されたあと、日本でも放映されました。

 その中では「一本」とは相手の命を奪うくらいに強烈な技・・ということが語られています。しかし、本来の「一本」 の意味はすこし違うようです。

 「一撃必殺」という言葉があります。これは、「一本をとる」という考え方をより具体的に表しているようです。一撃で必ず殺す、つまり相手の命を奪うとしているのです。一撃で相手を殺すというのは、世界中の狩猟民族がほぼ共通に持っている考え方です。

 これは、決して自分の技術の高さを証明しようとしているのではありません。獲物に対する尊敬の念から生じています。大切な「命」を奪うときに、一撃でしとめ、余計な苦しみを与えないことが最低限の「礼儀」であるという考え方です。

 この「一撃必殺」の精神こそ「一本」の源であると考えられます。この考え方が、武道など相手を殺傷することから昇華した運動文化に受け継がれたと考えられます。よって、柔道・剣道・空手などでは、「一本」や「一振り」・「一撃」で相手を倒すことが高いレベルの技術であるとされているのです。

杖を保持して歩く

2017-04-12
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(蔀関月編・画「伊勢参宮名所図会」(1797)『日本名所図会全集11』名著普及会.1975)

 以前、東洋大学の谷釜尋徳先生の詳細な調査を紹介しました。伊勢神宮に参拝(お伊勢参り)した旅日記(男性に限る)から詳細にその歩行距離を算出しておられるのですが、平均30キロ台になっています。しかし、これはあくまで平均で旅行程の都合で一日一桁から10キロ台の日も含めたものです。最長は75キロですが、どの旅日記も50キロを超えています。谷釜先生が「無理のない歩行の上限は50キロ程度であった」と推察されているように、近世の日本人は50キロであれば毎日無理なく歩けたあろうと思われます。

 先日、谷釜先生から論文「近世後期の街道筋もおける棒の用途と身体技法」を送っていただきました。非常に興味深い内容ですので一部紹介します。近世の日本人は、歩くとき(移動するとき)・物を運ぶとき(運搬するとき)・休むとき(休憩するとき)に棒を多用しています。その棒の使い方と身体技法に関する論考です。

 そのなかで、近世の日本人は歩くときに「杖」を多用したことが述べられています。名所図会に描かれた旅人の姿を具に調査されています。その結果、描かれている432人中、杖を携行しているのは34.4%(男性29.0%、女性58%)であったと報告されています。

 さて、なぜ長い距離を歩くときに杖を携行したのでしょうか。近世の人々が試行錯誤の結果、杖を携行するようになったと思われますが、この杖の主な機能は地面に杖をついてからだを支えることではなかったと考えれれます。谷釜先生も棒の身体技法で述べられているのですが、その主な機能は「片踏み」を発現させることにあると思われます。「片踏み」とは、左右どちらかの肩と腰を前方に位置させたまま歩くことで、近世日本の身体技法の代表的なものです。

 「片踏み」にすることで体幹を捻らずに歩くことができます。杖を携行して歩くとわかりますが、杖を持った側の肩と腰が自然と前方に位置し「片踏み」となります。

 歩行形態について考察しますと、何も持たずに体幹を正面に向けて歩くことは非常に難しいことが分かります。私たちは日常生活のかなかで自然と「片踏み」を作り出しているのかもしれません。スポーツや武道の技術や動作にも「片踏み」を意識的に取り入れることができそうです。

集団訓練の功罪

2017-04-07
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 本学新入生宿泊研修では、グループや全体での集団行動に時間を割いています。チームワークや帰属意識、または達成感の醸成が目的であると考えられますが、動作の観点で考察するとメリットばかりではないと思います。

 明治維新により日本人の「身体性」が著しく変容したと言われています。この変容には大きく二つの要因があります。一つは、生活習慣の変化にともなうものであり、もう一つは明治政府の政策によるものです。

 明治政府は徴兵令を公布し多数の農民からなる軍隊を構成することとしまし。しかし、この徴兵令による国民皆兵化には大きな障壁がありました。それは、当時、国民の大部分をしめた農民には集団移動能力が欠如していたのです。つまり、行進ができなかったのです。そこで、学校体育の中で行進を徹底的に訓練しました、義務教育過程に兵式体操を採用しましたが、その内容は本来のものとは異なり、隊列をととのえての歩行が中心でした。さらに、同様の施策が音楽教育にもみられたのです。行進ができない原因の一つが、それまでの日本にマーチ(行進曲)のリズムが欠如していることに気づいた政府は、「文部省唱歌」をつくり、マーチの音楽に合わせて歩くことを訓練させました。

 さて、足並みをそろえて行進ができるとはどういうことでしょうか。地面を踏みしめるタイミングを一致させる必要があります。すると、着地脚の膝や足関節(足首の関節)を伸展させるアクセント(感覚)が強くなってきます。逆に、膝や足関節を屈曲させる動きは消失していきました。

 日本人が行進ができなかった主要因は、膝などを前方に送り込む「屈曲動作」による歩行形態であったためと考えられます。集団訓練は、徐々に日本人から武術的身体を奪うことになったと考えられます。

安藤友香選手「忍者走り」で日本代表内定

2017-03-19

 8月にロンドンで行われる世界陸上選手権の代表選考会を兼ねた「名古屋ウィメンズマラソン」が3月12日、ナゴヤドームを発着点に行われ、初マラソンの安藤友香選手(22=スズキ浜松アスリートクラブ)が2時間21分36秒で2位に入りました。安藤選手は日本歴代4位の好記録(初マラソン日本最高記録)で日本陸上競技連盟が定めた世界選手権の派遣設定記録を突破。女子マラソンの代表に内定。優勝はリオデジャネイロオリンピックで銀メダルを獲得したバーレーンのユニスジェプキルイ・キルワ選手(32)で、2時間21分17秒でした。

 これだけなら、東京オリンピックへ向けて低迷を続けてきた男女マラソン界に有望選手が現れたということなのですが、それ以上に注目を集めているのが安藤選手のランニングフォームです。忍者走り・乙女走りなどといわれています。腕をだらりと下げた独特のフォーム。この走法をなみあし的に解説してみましょう。

 安藤選手の腕をだらりとさげた走り、要諦は腕を下げていることではなく肩の動きが抑えられることにあると思われます。この走りは、15年以上前から金田伸夫先生や矢野龍彦先生らの研究グループが提唱されてきました。それらは「ナンバ走り」として著書にもまとめられています。

 その後、中国人選手によって手をだらりと下げて走る選手は現れたのですが、日本人選手でこれだけの成果をあげた選手ははじめてだと思います。

 さて、走動作を腰と肩の動きから考えてみます。例えば、左足が着地して右足が振りだされる局面では右腰が前方に出ようとします。その動きでカラダは左を向こうとします。しかし、走動作ではカラダはほぼ正面を向いたまま前進していきます。それは、カラダが左に向こうとする力を補償しているからです。そうしないと前に進むことはできません。そして、この作用は無意識に行われます。

 それでは、その補償はどのように行われているのでしょうか。最も知られているのが肩の動きによる補償です。左足着地で右足が前方に振り出される局面では、左肩を前方に移動させることによって補償します。腕を振ることも同様です。左腕を前方に振り出すことによってカラダが左を向く力を補償するのです。(ただ、腕を振る作用は、肩の動きを大きくする作用と、走歩行の速度によっては小さくする作用があります。このことは別の機会に取り上げます。)

 ところが、このように主に肩の動きで補償する走りは、腰(骨盤)と肩がほぼ逆方向に動くために体幹がねじれることになります。カラダに大きな負担をかけることは明らかです。体幹がねじれることによって内臓にも負担かかかる・・という説もあります。

 特にマラソン競技のような長距離走では、できるだけ体幹のねじれを抑えて走ることが理想だと考えられます。それでは、肩や腕ふりの以外で補償できるところはどこでしょうか。

 一つは腰(骨盤)の動きです。左足着地で右足が前方に振り出されるときに、左腰を前方に押し出す力を加えることで補償します。これが可能になれば、肩での補償は最小限に抑えられ、体幹を可能な限りねじらない走りが実現します。

 このときに、左腰を前方へ押すように動作すると上手くいきません。左股関節の外旋力を使うのです。例えば、左足着地で左ひざを伸展させようとすると左股関節は内旋傾向になります。そうすると右腰が前方に移動していきます。そうではなく、左ひざを逆に屈曲させる(屈曲を保つ)ように操作します。左股関節が外旋傾向になります。着地脚は固定されていますので、脚全体が外を向くのではなく左腰が前方に押し出されるのです。一般的な言い方でいうと「蹴らない」ということになります。

 そして、この「蹴らない」ことはもう一つの大きな補償を生み出します。それが足裏の摩擦です。実はほとんど語られていませんが、走歩行時のトルクは足裏の摩擦によって補償されるのです。このことは二足歩行ロボットの研究者に教えていただきました。イメージしにくい方は氷の上を走ると想像してください。まっすぐには走れません。足裏の摩擦が極端に少ないからです。

 「蹴らない」走りはフラット着地を生み出します。フラット着地は足裏の着地面積が広くなるので大きな摩擦を得られることになります。

 これらのほかにも、足部の状態などが条件になると思われますが、足関節に可動域がある日本人選手には体幹をねじらない走りが有効であると思われます。

 安藤選手の今後のご活躍を祈念いたします。

Mr.左荷重、浅井康太選手、惜しくも3着

2016-12-31

 今年最後の大一番「KEIRINグランプリ2016」は30日、東京・立川競輪場の第11Rで争われ、稲垣裕之選手の先行に乗った村上義弘選手(42)=京都=が12年京王閣大会以来となる優勝を飾った。2着は武田選手。

 Mr.左重心として知られる浅井康太選手は3着。浅井選手が定期的に通う五体治療院(愛知県小牧市)の小山田代表によれば、「全体的に遅いペースで浅井選手の脚質が生かせなかった」とのこと。

 浅井選手とは何度かお会いしている。『怪我をしない体と心の使い方』(小田伸午、小山田良治、本屋敷俊介、創元社)の対談時も同席させていただいたが、その内容にはトップ選手特有の感性が・・・・。今後のご活躍を祈念したい。

Mr.左重心、浅井康太選手グランプリ2連覇なるか・・

2016-12-29
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 昨年末、「左重心」でおなじみの浅井康太選手が、競輪の年間チャンピオンを決める「KEIRINグランプリ」(東京の京王閣競輪場)で5回の出場で初優勝を果たしてことをお伝えした。

 今年も、浅井選手(左から二人目)は6年連続出場、2連覇がかかる。

 グランプリは、開催日においてS級に所属し、かつその年のGIで優勝した選手および獲得賞金額の上位選手から9名が出場する。今年の開催は30日(金)

 また、同時に開催される寺内大吉記念杯競輪には、先日発刊された『怪我をしない体と心の使い方』(小田伸午、小山田良治、本屋敷俊介、創元社)で、小田先生、小山田氏、浅井選手と対談している山内卓也選手が出場。山内選手も昨年の同レースに優勝しており2連覇がかかっていたが惜しくも準決勝で敗退、決勝進出はならなかった。

 グランプリの模様は30日(金)15時55分より、日本テレビ系列28局で放送予定。

 是非、ご声援ください。

重心移動と足圧

2016-12-23
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 今日は「2軸感覚ゴルフ」「ゴルファーなら知っていきたいからだのこと」の著者でおなじみの浜田節夫プロ(写真左)と久しぶりに大阪でミーテイングをさせていただきました。

 9月の東京セミナーを受講していただいた平尾貴幸プロ(写真右)と羽鳥則明トレーナーも東京からご参加いただきました。スイングの伸展・屈曲動作や重心移動について貴重なご意見を聞かせていただくことができました。

 ゴルフだけではなく、多くの方々は足圧と重心移動を混同している場合が多いのです。ゴルフではバックスイングで右足の足圧が高まるので同様に右に重心が移動していると捉えがちですが、足圧と重心位置を同様にとらえると動作を理解することができません。

 ゴルフでは重心を右から左に移動させる・・という教えもありますが、それは足圧が右から左に移るのであって、重心位置はそれほど変化ないと思われます。

 ご自分の専門分野に置きかえて考えてみてください。足圧と重心移動は違うことを確認してみてください。

 貴重なご意見をお聞かせいただきました、浜田プロ、平野プロ、羽鳥トレーナー、ありがとうございました。

意識と無意識をつなぐもの

2016-12-17
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 スポーツ分野の方々とお話ししていますと、ほとんど呼吸についての操作が出てきません。以前、プロサッカー選手と雑談をさせていただきましたときに、

「ボールをキックするときは呼吸はどうするのですか?止めますか?。吐きますか?。吸いますか?」

とご質問させていただいたことがあります。

「考えたことありません。サッカーでは呼吸のことは言わないですね・・。」

とのことでした。

 動作の初動(動き出すときに)で呼吸はどのようにするといいのでしょうか。シャウト効果(声を出すと筋力がアップする・・)や武道などで掛け声をかけるので、一般的には呼気で動作することがいいとイメージされていると思います。

 しかし、古流武術では逆に吸気で動作する方法が伝わっています。

 呼吸を工夫してみましょう。動作のどのタイミング(機会)で息を吸うのか?、止めるのか?、吐くのか?。工夫によってパフォーマンスが飛躍的に向上するかもしれません。

 私は、呼吸法は大きく4つに分けています。胸式呼吸腹式呼吸逆腹式呼吸蜜息です。そして、この順序で訓練するといいようです。蜜息とは尺八奏者の中村明一氏が著書などで紹介されている呼吸法です。日本人の本来の呼吸法と言われています。

 内臓の機能で唯一意識的に操作できるのが呼吸です。その意味では、意識と無意識をつなぐものと言えるかもしれません。

水平感覚

2016-12-14
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 小田伸午(関西大学)、小山田良治(五体治療院代表)、本屋敷俊介(阪神タイガース一軍トレーナー)共著による『トップアスリートに伝授した、怪我をしない体を心の使い方』(創元社)では、絶対水平感覚が取り上げられています。

 当研究会では、動作習得のために必要不可欠な感覚の一つを「絶対水平感覚」と名付けています。私たちの身体に常に一定方向に働く力は重力です。重力は垂直方向に働きます。この重力の方向を正確に感知することによって動作が洗練されるのです。以前は垂直感覚といっていました。

 さて、この絶対水平感覚が優れた選手らは可能か限り頭部を垂直に保って動きます。そのことによって水平感覚が磨かれるのです。この頭部を垂直に保つことは武術や武道ではよく言われてきたのです。宮本武蔵は「五輪書」の中で頭部の保ち方について「鼻筋を直にして」といっています。

 また、太極拳などでは「二目平視」といわれてきました。左右の目を水平に保てという意味です。これらの頭部を垂直に保つ条件は体幹にあります。体幹の各部が切り離されることによって可能となります。

 現在、流行のコアトレーニングは有益な訓練ではありますが、体幹を一つに固める・・と理解していると逆に水平感覚を低下させる結果になるかもしれまえん。

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